「アーティスト・イン・レクリエーション」報告会レポート
ファンファンとは?

ファンファンで取り組んでいるプログラム「アーティスト・イン・レクリエーション」。アーティストと地域の福祉施設が連携し、様々な知見やアイディアを共有する勉強会を行いながら、レクリエーションを企画していく取り組みです。2024年の夏から秋にかけて、アーティストや地域の皆さんと共に、勉強会やリサーチ、各施設でのレクリエーションを実施してきました。
12月10日、すみだリバーサイドホールにて、本プログラムの報告会を行いました。ゲストに三ツ木紀英さん(アートエデュケーター・アートプランナー、ARDA 代表理事)をお呼びして、プログラムの所感や今後のアートと福祉の連携等について語った当日の様子をお届けします。
プログラムを通した歩み寄り、つながり
まずはディレクターの青木より、プログラムのコンセプト説明から。
青木:福祉領域における「レクリエーション」と、アートの文脈で行われる「ワークショップ」には、どちらもちょっと曖昧な領域があるのではないか。その領域から、両者がポジティブに近づき合えるのではないか、と思いました。誰もが地域の中で「健康で文化的な生活」を送れることについて考えていきたいというのが、本プログラムのコンセプトになります。
そしてそのコンセプトに基づき、「(アート側が)一方的に、『こんなプログラムをやります』と施設側に提案をするのではなくて、福祉領域の人たちとアート関係者で、もっとお互いの共通言語を作っていけるような場から作りたいなと思いました。なので、 プロセスとしては勉強会という時間から始まりました」と、勉強会を設けた理由についても説明しました。
*勉強会のレポートはこちら
第1回 https://fantasiafantasia.jp/archives/1064
第2回 https://fantasiafantasia.jp/archives/1104
第3回 https://fantasiafantasia.jp/archives/1110
また、アートと福祉の協働事例として、墨田区で地域に根付いて行われてきた地域福祉活動に着目し、ファンファンが興望館と行ってきたプロジェクトや、現在社会福祉士の資格取得に向けて学んでいる青木が実習先で実施したワークショップについて共有しました。

続いて、本プログラムで行った2つのレクリエーションのご紹介。B型作業所「隅田作業所」での身体を動かすレクリエーションと、地域福祉施設「興望館」でのオリジナル四字熟語づくりのレクリエーションの様子について、当日の記録写真とともに紹介しました。
普段、身体的な接触を原則NGにしているという隅田作業所で、「身体に触れ合う」こと自体が大きなチャレンジだった…という話には、会場の皆さんも深くうなずいていました。また、興望館で参加者の皆さんがつくったユニークな四字熟語の数々に、会場から笑いが起きる場面もありました。
上本竜平|隅田作業所 レクリエーションの詳細レポートはこちら https://fantasiafantasia.jp/archives/1125
佐藤史治+原口寛子|興望館 レクリエーションの詳細レポートはこちら https://fantasiafantasia.jp/archives/1154
レクリエーションの実施を経て、各施設のスタッフさんからは様々な感想があがりました。例えば、隅田作業所のあるスタッフさんは、「職員側が難しいと思っていた『身体に触れる』ことを、みんなでやり方を考え、ハードルを超えられたのが良かった。これが分かり合うということなのですね」というような感想を述べられました。
また、「参加者同士がすごくリラックスして話が盛り上がっていた」や、「普段の作業では見られない利用者の皆さんの個性が見られて、『誰もが等しく生きている』、そんな生命力が詰まったレクリエーションに感じた」というようなコメントもありました。
そしてどの施設からも、「福祉施設同士がつながることができて良かった」というコメントがありました。同じ地域でありながらも、分野(こども、障がい、高齢者など)によって、出会ったり、お互いの働きを知ったりすることはなかなかできないそうです。「お互いを知ることで地域における日常レベルの協力が増えれば、墨田区らしい地域力がより一層生まれると思う」と述べられるスタッフさんもおられました。
企画を継続発展させるためのアドバイスとして、「他の施設に知ってもらうために、動画があると良い」という具体的な意見も、参加した施設のスタッフさんからあがりました。
今後の展開について、「やはり1回だけのレクリエーションだと、僕たちもやりきれない部分があり、もっともっと継続したいという話もしています。しかし、それにあたっては、予算や基礎知識の不足など、色々な課題があります」と青木。その課題感の一方で、「同じ福祉と言えど、実は分野ごとに独立していてつながっていなかった福祉関係の方々が、つながる機会になったというのは、僕たちも思わぬ成果でした」と、改めて今回の手ごたえを振り返りました。
ARDAの20年以上の実践から、現在地を考える
続いて、芸術資源開発機構(以下、ARDA)の代表理事である三ツ木紀英さんから、ARDAの活動についての紹介です。

三ツ木紀英さん(アートエデュケーター・アートプランナー、ARDA 代表理事)
2002年に設立されたARDAは、「アートデリバリー」、そして「アーツ×ダイアローグ」という、大きく2つの軸の活動を行っています。うち、「アートデリバリー」は法人化する前の1999年からスタートしたものです。プログラム立ち上げの背景には、2000年に介護保険法が施行され、高齢者施設等の整備が進んだ一方、元々高齢者の方が暮らしていた日常から切り離されて、無機質な空間で暮らしていくことへの課題感があり、文化的な活動をそういった施設で展開できないか、という考えがあったそうです。
アートデリバリーの特徴の一つは、ワークショップ実施前に行われる「介護士講座」。職員さんが当日、現場に関わりやすくするための準備の時間で、ワークショップを実際に体験し、フィードバックを行います。ワークショップを自分ごとにしてもらうこと、職員さんが利用者の方と一緒に参加することで、普段とは違う利用者の一面を発見してもらうことを狙いとしています。
実際のワークショップでは、普段の生活では「面倒な人」という扱いを受けている人の大きな声が「面白い表現」としてスポットを浴びたり、日常では表情に乏しい方が豊かに笑い、積極的にコミュニケーションするような時間になったそうです。また継続したことで、参加した介護士さんが、普段のレクレーションのあり方に疑問をもち、利用者さんと一緒にお茶を飲んで過ごすような時間をつくるなど、日常の介護のあり方にも変化が生まれたといったエピソードも紹介されました。
ARDAでは、こういったプログラムを、助成金や行政からの事業委託を受けながら行ってきました。継続して行うことでの手ごたえも感じつつ、趣旨の理解されづらさや、財政基盤等の面で事業継続の難しさがありました。

実践を継続しながら、さまざまな課題も見据えてきた三ツ木さん。そんな三ツ木さんですが、ファンファンのプログラムを通して、次のように感じたそうです。
三ツ木さん:ただ、今はちょっと時代が変わってきているのかな、と思います。そういった意味で、ファンファンが始めている活動は、今の時代に合ったものなのではないかなと。今だからまた新しい展開、新しい波を作れるんじゃないかなという風に思います。
ARDAの「アートデリバリー」や「介護士講座」と、ファンファンの「アーティスト・イン・レクリエーション」や「勉強会」。似ているようですが、後者はより「双方向に歩み寄っていく、軽やかでしなやかな感じがする」と三ツ木さんは言います。その一つの表れとして、隅田作業所のレクリエーションで、互いの身体に触れられたのは、アーティストが入ったからではなく、双方が歩み寄れたからではないか、と話しました。
三ツ木さん:アートデリバリーを始めた頃はアートを高齢者施設で展開すること自体が革新的で、そこを強調する必要があった。「アーティスト・イン・レクリエーション」っていうネーミングが絶妙なのは、福祉の文脈のレクリエーションというものを否定しないというか、そこを一緒に豊かにしていく、という姿勢が、とても現代的で優れていると感じます。
「協働」の姿勢について、青木が「これまでの仕事で関わってきた福祉分野とのアート活動でも、参加された方の日常において、それがどれくらい良い経験になったのかなとか、施設側と本当に協働できているのかな、という疑問を持つこともありました」と、企画背景にかかる所感を語ります。
青木:言葉を変えたり、やり方を工夫したりして、福祉施設の現場の人達にも届くことがあると気づく瞬間もあったので、こういう活動がもっと浸透していくといいなっていうのは、今回もやりながらすごく考えていましたね。また、同世代のアート関係者と話していて、「自分たちが高齢者になった時に、アーティストのレクリエーションとかが一般的になっていたら楽しいよね」と、自分ごととしてこういったプログラムを考える話題になったことも背景にあります。

夏から秋に行った勉強会の様子。
また、青木からは、「受け入れる側が主体的なのは、墨田区らしさもあるのかもしれない」と指摘。100年以上の歴史のなかで、地域の利用者に合わせてさまざまなプログラムを作ってきた興望館、地域における精神障がいの理解を高めることを目指す隅田作業所と、どちらも地域とのつながりを大事にしている施設だったからこそ、良い形の協働ができたと語りました。
記録や経験の残し方についての議論も展開しました。
三ツ木さん:ワークショップは、どうしてもそこに参加した人でないと分からない部分がある。しかし、興望館での四字熟語のプログラムは、作品や表現が残ることで、人の作品を見て、また自分が四字熟語を作りたくなったり、 地域の人や子どもたちも参加できる形での展開もあったりと、新しい人が巻き込まれ、プログラムが拡張していくというような可能性があって、面白いなと思いました。
それに対して青木からは、「アーティストがずっといなくても残せるもの、技を託せるものができたらいいな、という話は、アーティストとの企画会議でも出ていました」と、企画の背景の共有がありました。

会場との質疑応答
参加者A:レクリエーションの実施にあたって、参加者のことだけでなく、アーティストがボランティアベースにならないように気をつける必要があると思う。その状況についてはどう考えるか。
三ツ木さん&青木:今回紹介したプログラムについて言えば、アーティストフィーを支払っているものの、総じて、なかなかしっかりした予算は取れない状況にはあると思う。一方で、アーティストのフィールドが、美術系の施設だけではなくなってきており、福祉領域に関心を持つアーティストが増えていたり、アートにかかわる人口自体は増えていたりする。予算や人材育成などの課題はあるが、開拓領域としての可能性は感じている。
参加者B:「社会化」や「制度化」についてはどう思うか? こういったプログラムの良さは、個人個人や、その関係がどんどん変化していくことにもあると思う。しかし、実施においては予算や人手の問題の解決のためには、制度と結びつかざるを得ないであろうところもあり、制度化していくことで、プログラムの良さが失われてしまうんじゃないかなみたいなと思った。どういう塩梅でやっていくのが良いのだろうか。
青木:制度化されていると、それに見合った成果を求められるというしがらみもある。制度化して安定するのは嬉しいが、その先にモヤモヤが待っているなという予感がする。かといって助成金を使わないと、自由にはできるが、もろもろの資源がないのは確か。
三ツ木さん:制度は怖いが、制度が無いと回っていかない。制度の中で淘汰されるものもあると思うが、そこをいかに闘えるかだと思う。制度は使ったほうが良いが、からめとられないようにやっていく必要がある。
青木:制度側と向き合う姿勢について。二枚舌である限り、本当に理解はしあえないと思う。短期的なKPIは適さないと思うので、5年後か10年後かに何か変化があるかもしれないことに期待しましょう、ということを正直に言いたい気持ちがある。制度側とも良い共犯関係になりたいと思う。
ディスカッションや質疑応答でうなづきながら話を聞いたり、終了後も感想を述べあったりネットワークを広げたりと、熱い空気感に包まれた報告会になりました。
プログラムとしては一区切りになりますが、ファンファンでは今後も、今回のネットワークや知見、気づきを活かしていけるように考えていきます。
ぜひ、今後も活動にご着目下さい!
各レクリエーションのレポートはこちら
上本竜平|隅田作業所 レクリエーション
https://fantasiafantasia.jp/archives/1125
佐藤史治+原口寛子|興望館 お食事友の会の皆さんと「オリジナル四字熟語をつくろう!」 https://fantasiafantasia.jp/archives/1154
執筆:岡野恵未子
◾️本企画は「隅田川 森羅万象 墨に夢」(通称:すみゆめ)の一環として行なわれています。
すみゆめは、すみだ北斎美術館の開設を機に2016年から始まったアートプロジェクトです。葛飾北斎が90年の生涯を過ごした墨田区及び隅田川流域で、墨で描いた小さな夢をさまざまな人たちの手で色付けしていくように、芸術文化に限らず森羅万象あらゆる表現を行っている人たちがつながり、この地を賑やかに彩っていくことを目指しています。開催期間中は、まちなかや隅田川を舞台に主催企画やプロジェクト企画を行うとともに、すみゆめ参加者や関心のある人たちが集う「寄合」(毎月開催)で相互に学び、交流する場を創出していきます。またメイン期間の外にも、すみゆめの趣旨に賛同する企画を「すみゆめネットワーク企画」として広報連携するなど、一年を通して活動しています。