「アーティスト・イン・レクリエーション」上本竜平|隅田作業所 レクリエーション実施レポート

「アーティスト・イン・レクリエーション」上本竜平|隅田作業所 レクリエーション実施レポート

ファンファンとは?

ファンファンで取り組んでいるプログラム「アーティスト・イン・レクリエーション」。アーティストと地域の福祉施設が連携し、様々な知見やアイディアを共有する勉強会を行いながら、レクリエーションを企画していく取り組みです。

今回のレポートでは、3回の勉強会を経て実施した、レクリエーションの様子をお届けします!

11月下旬、ダンサーの上本竜平さんと、特定非営利法人とらいあんぐるが運営する就労継続支援B型事業所「隅田作業所」とがコラボレーションしたレクリエーション企画を実施しました。

隅田作業所は、「自分のペースで定年無く安心して働ける場所」をコンセプトに、無理なく生活リズムをつくっていきたい方や、仕事を通して仲間を作っていきたい方などを対象にしてひらかれている施設です。お菓子や雑貨等の封入といった軽作業や、公園緑化事業、揚げもち等の自主製品作りのほか、「レクリエーション」も活動の軸として位置づけられています。今回は、このレクリエーションの枠で上本さんとの企画を行いました。

朝10時。続々と集まってこられた利用者さんと職員さんとの、朝の会が始まります。この日の参加者は20名程度。その日のスケジュールや内容を確認した後、上本さんやファンファンのスタッフも交じって、みんなで一緒にラジオ体操を行いました。

自分や相手の身体について、丁寧に感じてみる

その後、いよいよレクリエーションがスタート。今回の会場は、利用者さんが通いなれている場所である、普段作業をしているスペースでの実施となります。広さが限られているため、参加者を2つのグループに分けて進めていきます。

まずは、身体をほぐすところから。一つの輪になり、上本さんの声がけのもと、お腹や脇腹、わきの下などを丁寧にさすっていきます。続いて、身体をのばしたり、”自分の手で自分の身体を押して”いくストレッチなども行っていきます。普段意識して触らないような場所に改めて触れながら、自分の意志と自分の身体を別々のものとして捉え直していく動きをすることで、心なしか不思議そうな表情になっている皆さん。

今回のレクリエーションは、あいだあいだにフィードバックをしてもらう時間を取りながら進んでいき、利用者さんからは「緊張した」「リラックスした」「『無』を感じた」というようなリアクションがありました。

次はペアで行うワークです。1人が目を閉じ、もう1人の掌の上に手を乗せて身体を委ねます。手を乗せられた方は、“相手の手を握らずに”自分の掌や手首、手の甲で触れ続けていくことで上下左右に動かし、相手を誘導しながら、自由に動き回ります。つい手をつかんでしまったり、手が離れてしまったりすることもありましたが、上本さんの動きを見て触発され、だんだん大胆な動きになっていきます。

後半は別のグループに分かれて、音楽に合わせて身体を動かしてみるワーク。BGMは、「嵐」や「aiko」など、普段の作業中に流れているJ-POPで、利用者の方からリクエストがあった曲です。

前半と同じく、手をつながずに相手の身体に触れながら、大きな円を作ったり、手を上げ下げしたり、円を小さくしていったり…、といった全員での動きを行った後、ペアでの動きに移っていきます。

ペアワークでも前半と同じく、相手の身体に触れ続けたまま身体を動かしていきますが、誘導役などの役割分けをせず、お互いの動きを目で追うだけでなく、触れていることで伝わる身体の重み、相手の気配によって動かされていくのを感じながら、さらに自由に、即興で動いていきます。

曲の盛り上がりに合わせて小さく動いたり、大きく動いたり、歌手が声を伸ばすのと合わせて、身体をぐーっと上に伸ばしてみるなど、時には笑いも起きながら、和気あいあいと身体を動かしていく皆さん。思いっきり相手を押す、という動きなどもやってみながら、様々なかたちで相手の身体のことや、周りの環境について感じていきます。

レクリエーションを振り返って

後半の実施後も、参加した皆さんとフィードバックを行いました。「お互いのグループの動きを見て、どうだったか?」という質問に対し、利用者さんからは、「かっこよかった」「力強かった」「楽しそうだった」という感想に加え、「ダンスだった!」というコメントも。今回、事前に利用者の皆さんには「ダンスをやります」とは伝えておらず、「身体を動かすレクリエーションを行います」とお知らせしていました。それでも「ダンス」という言葉があがってきたのは、周りや相手を感じて身体を動かしていくこと、お互い思いもよらない動きが生まれることが、ひとつの“表現”になっていたからかもしれません。

職員の廣川さんからは、レクリエーションに実際参加しながら感じたこととして、「『この人はこんなに力があるんだ』、『こんなに動けるんだ』という新鮮さがありました」とお話しされました。隅田作業所では、普段身体に触れあうことは原則行っておらず、そういった機会自体が施設にとってはチャレンジでしたが、そのチャレンジがあったから分かったことで、「今回の企画のおかげで風穴を開けてくれました。やってよかった」と話してくださいました。

また、廣川さんからは、「この先の未来、もし隅田作業所のような福祉施設がなくなってしまったら皆さんはどうなるか、ということを考えています。もし皆さんの関わりが施設だけでなく、地域ともつながりをもっていれば利用者の方も孤立することなく、近隣の方々と助け合いながら生活ができるかもしれません。『障がいを持つ方はコミュニケーションが取りにくい』など世の中に蔓延る偏った印象を打破していくためにも、地域とのつながりを作業所のプログラムでも作っていきたいです。今回のレクリエーションも、新しいつながりを作ったり、場所をひらいたりという点で、その一つのきっかけになればうれしいです」というお話もいただきました。

今回のレクリエーションは、色々な人の「やってみよう」が重なって、チャレンジできる場所と人、参加してくれる人が存在したからこそ、実施ができました。
参加した方にとっては、普段の通所の中でたまたまあった、“ちょっと変わった日”。もしかしたら、今回のことがきっかけで、参加した方の中で何かが起きているかもしれないし、何も起きていないかもしれません。何かが起きるのが、5年後や、10年後かもしれません。
今回の上本さん、隅田作業所の職員さん、利用者の皆さん、そしてファンファンとが一緒にまいた種が、どうなっていくのか。楽しみに見守りつつ、次はどうその種を育てていくか、というチャレンジが必要になってくるのではないでしょうか。

勉強会の際に出たアイディアもふまえ、利用者さんも記録係として、レクの様子を撮影いただきました。

上本 竜平
東京都八王子市出身。2004年に「仮設劇場になる海の家」を企画した『茅ヶ崎戯曲』を契機にAAPA(アアパ/Away At Performing Arts)を立ち上げ、様々な場所で日常と舞台を地続きに見せる仮設空間を企画。

2007年より周囲の環境をあらためて意識する場として、ダンス作品を創作。「大野一雄フェスティバル2009」「踊りに行くぜ!!Ⅱ vol.1」「Asia Pacific Impro 2」など国内外の企画に参加し、各地でレジデンスや公演を行う。

2013年夏、足立区の北千住に「日の出町団地スタジオ」をオープン。スタジオでのクラスやワークショップ、各地で行うワークショップやパフォーマンスなどを通じて、日々のからだに気づく場を広げている。


執筆:岡野恵未子
撮影:コムラマイ

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◾️本企画は「隅田川 森羅万象 墨に夢」(通称:すみゆめ)の一環として行なわれています。
すみゆめは、すみだ北斎美術館の開設を機に2016年から始まったアートプロジェクトです。葛飾北斎が90年の生涯を過ごした墨田区及び隅田川流域で、墨で描いた小さな夢をさまざまな人たちの手で色付けしていくように、芸術文化に限らず森羅万象あらゆる表現を行っている人たちがつながり、この地を賑やかに彩っていくことを目指しています。開催期間中は、まちなかや隅田川を舞台に主催企画やプロジェクト企画を行うとともに、すみゆめ参加者や関心のある人たちが集う「寄合」(毎月開催)で相互に学び、交流する場を創出していきます。またメイン期間の外にも、すみゆめの趣旨に賛同する企画を「すみゆめネットワーク企画」として広報連携するなど、一年を通して活動しています。