「アーティスト・イン・レクリエーション」第2回勉強会レポート
ファンファンとは?
ファンファンで取り組んでいるプログラム「アーティスト・イン・レクリエーション」。アーティストと地域の福祉施設が連携し、様々な知見やアイディアを共有する勉強会を行いながら、レクリエーションを企画していく取り組みです。
2回目の勉強会に向けて、アーティストの皆さんは各施設の見学を行いました。勉強会では、アーティストの活動紹介や見学して感じたことを共有し、参加者一同でどんなレクリエーションができるかを話し合いました。
1回目の勉強会の様子はこちら↓
上本竜平さん×隅田作業所
ダンサーの上本竜平さんは、人と触れ合いながら身体の角度や体重のかけ方を変えて即興で踊るダンス「コンタクト・インプロビゼーション」を専門としています。その特性から、他者に「触れる/触れられる」ことをとおして、自分や他者と対話をするようなワークショップも実施してきました。
上本さんがレクリエーションを企画するのは、特定非営利法人とらいあんぐるが運営する就労継続支援B型事業所、「隅田作業所」。上本さんは見学に行った際、BGMをかけながらトロフィーの封入やローラーレールの組み立てなどを行う利用者の皆さんを見て、「ここは仕事場所、日常の延長の場所なんだな」という印象を受けたそうです。
職員の廣川さんからは、「精神障害を持つ方には様々な方がいるが、作業所に通われているのは比較的自立して日常生活を送られている方々。自分の足で歩いて作業所に来たり、仕事後に利用者同士でお茶に行ったりしています。みんなで和気藹々と仕事している様子を見ていただけたのは嬉しかったですし、施設としてはそういった『色々な人が地域に居るんだよ』ということを普及啓発していきたいと考えている」というコメントがありました。
そういった日常の中でも、1人暮らしの方、高齢の利用者の方の中には、長い間“人と触れ合う”機会がないという方もいるそう。上本さんの活動の話を聞き、「少し触れ合うということだけでも、利用者にとって新鮮な刺激になるのでは」と感じたと廣川さんは話しました。
可能性について話される一方で、勉強会参加者からは、「ある種非日常な体験をすることで、例えばストレスを感じてしまうなど、良くない影響は出ないか?利用者に負担にならないかたちとは?」といった懸念もあがりました。
それに対して廣川さんは、「楽しくて興奮して眠れないというようなことはあるかもしれないですが、個人的には、企画に参加することで良くない影響が残るという心配は持っていません。利用者の皆さんにとって、普段にはない今回のレクリエーションですが、プログラムにどこまで参加できるのか、無理をしない範囲ということはご本人たちが一番分かっている。もし、体調を崩すようなことがあっても専門職員がしっかりサポートします。個人の思いとしては、新しい経験が良い刺激につながるかもしれないので、なんでもチャレンジしてほしいですし、そのような機会を増やしていきたいですね」とコメント。
上本さんは、「やってみないとどんなリアクションが得られるのか分かりませんが、他者に触れたときにどんな感覚になるのか、ということこそが大事な気がしています。それは緊張かもしれないし、安心かもしれない。他者が怖いと感じる人が居たとしたら、そのイメージが逆転することもあるかもしれないので、チャレンジしてみる価値のあることかなとは思います。今回、職場でできるということは重要だと思っています。ある職場でワークショップを行ったときに感じたのですが、同僚や上司、部下と触れ合うことが新鮮で、今までと印象が変わったという方もいました。どんな感覚が生まれるか未知数だから、今回はまずはやってみるのが大切かなと。
視察の際に、廣川さんから『職員は利用者一人一人の病名をみて画一的に関わるのではなく、その人自身と接している』という話がありました。それを聞いて、安心して互いが“出会える”場を作れるといいのかなと思っているところです。また、そういう意味では、ダンスを創作して見せ合う発表会のようなことは考えていません。どちらかというと、なるべく色々な人がその場に参加して、互いに出会う場を目指せれば良いなと思っています」と、今回チャレンジしたいポイントを語られました。
「佐藤史治と原口寛子」×興望館
ユニットで活動する佐藤史治さんと原口寛子さんは、共同作業等を通じて、固定された制度や役割、関係性をちょっとズラすような作品を制作しています。ファンファンでも過去に、参加者同士で協働するワークショップ「ゆびのかたりて」を実施しました。
2人がレクリエーションを企画するのは、学童保育・こども園・高齢者の方の支援・その他様々な世代の地域の方々との交流の場を持つ地域福祉施設、興望館。幅広い世代の方とのつながりを持つ中で、今回はご高齢の方々とのレクリエーションにチャレンジします。興望館では定期的に地域の高齢者とお茶会や、ランチを一緒に食べる「お食事友の会」を行っており、佐藤さんと原口さんはその様子の見学に行きました。
見学を経て佐藤さんからは、「子どもや地域のお年寄りまで、幅広い世代が集まってくる場所があるのに驚きました。『お食事友の会』の見学では、『家とかでは話せないんだけど』と推し活の話をしてくれる方、昔の墨田区の様子を教えてくれる方などに出会いました。家とか仕事場とは違う場所というのが重要なポイントになる気がしています。そういう場所ならではのことができたらいいなと」とコメント。
「お食事友の会」は、コロナ禍でお休みしていましたが、昨年から再開。興望館職員の萱村さんからは、「興望館に通う方々の様子を見ていると、独居で普段はあまり食事をしていない方もいたり、付き添いの方が『普段とは違う表情だ』とコメントされることもあり、『普段とは違う楽しみ』として来ている方も多いのかなと思います」とコメント。「その人の今までの人生が、『作品』までいかずとも、何かになったらいいなと思っている」と話しました。
原口さんからは、「利用者の方とのおしゃべりなどから何かを生み出していくのが良いかなという話はしています。それにあたり、お食事友の会参加者の中にも、20歳くらいの年齢差があるというグラデーションをひとまとまりにしないことが大切だなと思っています」という気づきの共有があり、佐藤さんも「“高齢者”とひとくくりにせず、それぞれの個性を大事にできれば」と話しました。
オブザーバーからのコメント
今回の勉強会には、2人のオブザーバーが参加してくださいました。
舞台芸術の企画・制作に携わってこられ、現在は精神科の病院で働く荒川真由子さんからは、「自分も病院内でワークショップの企画をしようとしているところ。自分としては、外から急に知らない人が来て『何かをやらされている』という状況になるのは避けたいと思っています。ご本人が楽しい、面白いという瞬間が生み出されていくといいと思います。そのためには、お話を重ねることや共に時間を過ごしてみる、経験してみるという過程が重要で、その上で“作品”というものを作るのか作らないのか…ということを含めて考えることが大切だなと思いながら聞きました」とコメントをいただきました。
地域でデザインやものづくりに関する様々な活動に携わっている三田大介さん。三田さんは、墨田区の福祉施設の商品づくりプロジェクト「すみのわ」コーディネーターも務めています。
「墨田区内の他の作業所もそうですが、こぢんまりとした空間が多いので、職員さんとの打合せ内容を利用者さんもなんとなく聞いている感じなんですよね。企画段階から話が漏れている感じが、一方的でなくて面白いなと。また、隅田作業所は地域との繋がりに積極的な施設だという印象なので、地域のイベントに出張して実施することなども想像しましたね」とコメントしました。
それを受け、廣川さんからも「最近、利用者の方から地域の方と関わりたいという話が出ました。そういった意見が利用者側から出るのは初めてで、利用者も地域との関わりを求めているんだとわかりました」というエピソードの共有がありました。
次回の勉強会では、具体的にどんなレクリエーションを行うか、内容を詰めていきます。
執筆:岡野恵未子
◾️本企画は「隅田川 森羅万象 墨に夢」(通称:すみゆめ)の一環として行なわれています。
すみゆめは、すみだ北斎美術館の開設を機に2016年から始まったアートプロジェクトです。葛飾北斎が90年の生涯を過ごした墨田区及び隅田川流域で、墨で描いた小さな夢をさまざまな人たちの手で色付けしていくように、芸術文化に限らず森羅万象あらゆる表現を行っている人たちがつながり、この地を賑やかに彩っていくことを目指しています。開催期間中は、まちなかや隅田川を舞台に主催企画やプロジェクト企画を行うとともに、すみゆめ参加者や関心のある人たちが集う「寄合」(毎月開催)で相互に学び、交流する場を創出していきます。またメイン期間の外にも、すみゆめの趣旨に賛同する企画を「すみゆめネットワーク企画」として広報連携するなど、一年を通して活動しています。