「アーティスト・イン・レクリエーション」第1回勉強会レポート
ファンファンとは?
ファンファンでは、新たなプログラム「アーティスト・イン・レクリエーション」を始めます。
これまでファンファンは自分たちの活動におけるアクセシビリティについて考えるプログラムを行なうなかで、地域で暮らす高齢者が実は様々な理由から文化イベントに参加することが難しいのではないかと気づき、身近にアートを楽しめる工夫をみんなで考えるワークショップ「まちへ出たアートが今度はお宅訪問!?地域で暮らす高齢者へ向けたアートプログラムを考えよう!」を開催しました。このワークショップでは、アーティストや介護福祉の専門化、高齢者向けのアートプロジェクトを行なう企画者など、様々な方々と福祉とアートの協働について考える機会となりました。
そこで、ワークショップで得られた気づきをもとに地域のなかで実践に繋げることを目指し、2024年度から「アーティスト・イン・レクリエーション」を行なうことにしました。本レポートでは、企画の背景と、福祉領域とアート領域の関係者が互いの活動について学び合う勉強会についてお届けします。
「アーティスト・イン・レクリエーション」とは
「レクリエーション」や「ワークショップ」という言葉を、学校やイベントなどの様々な場面で聞いたことがあるのではないでしょうか。もちろん、それぞれの言葉は文脈によって様々な内容を意味しますが、例えば福祉の領域では施設利用者の心身の健康維持などを目的にした体操やものづくりなどが「レクリエーション」として行われています。一方で、アートの領域では作品制作の一環を共有し、地域住民らと制作を共にするような場を「ワークショップ」と呼ぶこともあります。似ているようで違う、でも重なりそうなところもあるレクリエーションとワークショップという独特の領域に、ファンファンは着目しました。
「アーティスト・イン・レクリエーション」では、アーティスト・ユニットの佐藤史治と原口寛子、コンテンポラリーダンスの作品を制作する上本竜平を招聘し、地域団体等と連携しながら「レクリエーション」を企画していきます。
レクリエーションを企画していくために、アーティストが福祉専門職や福祉職員の方々と学び合う「勉強会」を開催することで、福祉とアート、それぞれの専門職の相互理解を深めることも狙いです。そして勉強会を通じて生まれたアイデアを実際に協働先の福祉施設で実施し、その一連の課程は冬に開催予定の「報告会」にて一般公開する予定です。
第1回勉強会レポート「福祉とアート、互いの視点からレクリエーションを」
2024年7月31日(水)、すみだボランティアセンターにて初めての勉強会を開催。アーティストとファンファン事務局の他に、社会福祉法人 興望館、墨田区社会福祉協議会(以下、社協)、特定非営利法人とらいあんぐるが運営する就労継続支援B型事業所の隅田作業所の各担当者が集まりました。
この日は初の顔合わせのため、改めて企画の説明と、今回のレクリエーションでは高齢者はもちろん多世代を対象に行っていくこと、レクリエーションを通じ地域交流を促進することといった目的を共有しました。
会の中盤からはそれぞれの施設の紹介に移ります。墨田区で学童・こども園・地域の方々との交流の場を持つ興望館の萱村さんからは、これまでファンファンと取り組んできたラーニング・ラボ「#06 黒石いずみ×萱村竜馬 文化が寄り添っていた場所:今和次郎とセツルメント運動」(2020年度)や、アーティストの碓井ゆいさんと興望館の学童に通う子どもたちと行なったプラクティス「トナリのアトリエ」(2021年度)、地域福祉とアートの繋がりを考える展覧会「共に在るところから/With People, Not For People」(2022年度)に関わることで、「アートを通じて興望館の約100年の歴史を思ってもみなかったかたちで表現できた」とご自身の経験をお話してくださいました。
社協の新井さんと佐藤さんからは、地域福祉プラットフォーム事業(通称:ぷらっと)についてご紹介いただきました。名前の通り地域の方が「ぷらっと」立ち寄れる居場所を目指して運営する中で、「家族だけで抱えてしまっていた問題を気軽に相談できる場になり始めている。これからは地域住民同士が互いに理解を深め、安心して暮らせる地域にしていきたい」とお話がありました。
隅田作業所の廣川さんからは、施設は主に精神障害を持つ方の職場だけでなく居場所になっていて、レクリエーションも開催していると事業内容についてご紹介いただきました。中でもあげもちの作成と販売を通して地域の方と交流を持つ活動に力を入れていて、廣川さんは「互いに地域の人、1人の人間として出会うことから初め、施設を利用する方の生活や施設の状況についてを知らない方々に知っていただく機会になる。興望館で開催された展覧会のお話を聞き、ワクワクしている」とのお話が印象的でした。
興望館の萱村さんから「区内の施設だけれど、隅田作業所さんの活動をここで初めて詳しく知りました。福祉領域の中でも子ども、障害といった分野ごとに分かれていて連携を持つことが少ないけれど、施設同士で繋がりを持つことが大切ですね」とコメントが。これに廣川さんも、「障害という分野の中でも、知的障害、身体障害、精神障害を支援する制度も縦割りになっていて、施設ごとや個々人としての繋がりを持っていきたいですね」と共感していました。
社協の新井さんから「実は、福祉の現場では支援者が相手の身体に触れることは積極的にできない場合もあるんです。ダンスなどのレクリエーションを企画する際に、身体的な接触について福祉側がどう受け止めるかは勉強会でも話し合っていきたいですね」とレクリエーション企画に向けて大事なことを投げかけていただきました。確かに隅田作業所では基本的には利用者同士の身体的な接触は控えているところがあるそうです。一方で運動不足解消のために体操など、身体を使ったプログラムは行われていました。
これを受けて、普段はコンタクト・インプロビゼーションという身体が触れ合うダンスをされている上本さんは、「多くの人はからだが固まっているので、それをほぐすことから始めないと踊ることはなかなか難しいんです。からだを動かしたいニーズがあるのならばダンスと言わず、2人でやる『体操』というようなものでもいいと思っています」と、身体的接触やダンスということを柔軟に捉えていきたいという提案がありました。
本企画ディレクターの青木からも「レクリエーションもワークショップも決まった定義があるわけではなくて、お互いに揺らぎがあるところが面白いと思う。そんなゆらぎにアートと福祉それぞれから歩み寄っていくと、結果的に『ダンス』ではなく『2人でやる体操』という話になっていっていいのではないか。言葉や形式にとらわれず、それぞれにとって意義のあることを柔軟に考えていきましょう」とコメントがあり、これから福祉とアートのお互いの視点からレクリエーション企画を探る方法が共有されたように感じました。
次回の勉強会では、アーティストの皆さんの活動について伺います。
執筆:磯野玲奈
◾️本企画は「隅田川 森羅万象 墨に夢」(通称:すみゆめ)の一環として行なわれています。
すみゆめは、すみだ北斎美術館の開設を機に2016年から始まったアートプロジェクトです。葛飾北斎が90年の生涯を過ごした墨田区及び隅田川流域で、墨で描いた小さな夢をさまざまな人たちの手で色付けしていくように、芸術文化に限らず森羅万象あらゆる表現を行っている人たちがつながり、この地を賑やかに彩っていくことを目指しています。開催期間中は、まちなかや隅田川を舞台に主催企画やプロジェクト企画を行うとともに、すみゆめ参加者や関心のある人たちが集う「寄合」(毎月開催)で相互に学び、交流する場を創出していきます。またメイン期間の外にも、すみゆめの趣旨に賛同する企画を「すみゆめネットワーク企画」として広報連携するなど、一年を通して活動しています。