レポート「まちへ出たアートが今度はお宅訪問!?地域で暮らす高齢者へ向けたアートプログラムを考えよう!」

レポート「まちへ出たアートが今度はお宅訪問!?地域で暮らす高齢者へ向けたアートプログラムを考えよう!」

ファンファンとは?

「ファンタジア!ファンタジア!-生き方がかたちになったまち-」(以下、ファンファン)では2024年3月17日(日)に、地域で暮らす高齢者が身近にアートを楽しめる工夫をみんなで考えるワークショップ「まちへ出たアートが今度はお宅訪問!?地域で暮らす高齢者へ向けたアートプログラムを考えよう!」を開催しました。
ワークショップでは東京都立大学健康福祉学部作業療法学科に在籍し、作業療法士の資格取得を目指している荒川真由子さんをゲストファシリテーターに迎え、話題提供をいただきながら、福祉やアートに関心のある20名の参加者と共にアートプログラムのアイデアを考えました。
高齢者介護や地域福祉とアートの協働に向けたヒントに満ちたワークショップの様子をレポートします。

そもそもオープンスタジオに来れる人ばかりではない

今回のワークショップを企画したきっかけは、ファンファンが2023年度に活動拠点「藝とスタジオ」を定期的にひらく「オープンスタジオ」を行なうにあたって、「誰にどうやってオープンにしたら良いのだろうか?自分が思っているオープンは本当にオープンなのか?」という疑問から、荒川真由子さんを招いて【公開ミーティング】「『藝とスタジオのアクセシビリティを考える』を始める」を実施したことに遡ります。その発展版として、再度荒川さんとワークショップを開催しました。
はじめは、墨田区では高齢化が進んでいることから、「藝とスタジオ」近隣の高齢者に来てもらいやすくするにはどうすれば良いかを考えようとしていました。しかし、荒川さんと意見交換を続けるなかで、スタジオに来てもらうことも重要だが、そもそも自宅から出られない高齢者も多いという課題に出会います。地域でアート活動を展開するなかで誰かに来て欲しいと願うだけでなく、アートがお宅訪問するような可能性があっても良いのではないか、そんな発想の転換から今回のワークショップに至ったのでした。

老化と閉じこもり

この日はまず話題提供として、荒川さんが作業療法士になるための実習中に墨田区内の施設でのエピソードを紹介してくれました。墨田区は1階を事業所、2階を居住スペースにしている建物が多く、こうした住環境によって必然的に「閉じこもり」になってしまう場合もあり得るようです。荒川さんが墨田区内で対象者の自宅を訪問する実習をした際、作業療法士の先輩に、「1階への居住スペースの移動などを除いて、階段の昇り降りが難しくなった場合、どうするのでしょうか?」と質問したところ、「家族が数人がかりで運び出すか、もしくはもう外には出ない覚悟が必要かもしれない」というお話があったそうです。

閉じこもりとは、外出頻度が少なく、生活の移動空間がほぼ家の中のみへと狭小化する状態のことをいい、要因には老化に伴う身体的、心理的、社会・環境要因があるとされています。、閉じこもることによって、(心身の活動能力を失っていき、最終的には要介護状態へと進行していくと考えられています。もちろん、老化に伴う変化には個人差があります。

荒川さんの発表スライドより引用。

墨田区における高齢者の状況と、行政の取り組み

次に、ファンファンディレクターで、今回ファシリテーターの青木彬から墨田区の福祉活動についての紹介がありました。近年、墨⽥区では、将来推計において⾼齢者⼈⼝の増加が予想されており、「藝とスタジオ」のあるむこうじま圏域は、とりわけ⾼齢化率が⾼く、ひとり暮らしの⾼齢者数も⼀番多いエリアです。
(※出典:墨田区高齢者福祉総合計画第8期介護保険事業計画


そのような中で、墨田区ではたとえば「地域福祉プラットフォーム」「すみだハート・ライン21」といった取り組みがなされています。

ファシリテーターの青木(左)と、荒川さん(右)

また、タイトルで用いている「アートプログラム」という言葉について補足がありました。アートに携わる方には「ワークショップ」、福祉に携わる方は「レクリエーション」といった言葉が聞きなれているかもしれません。両者は似ているところもありますが、それぞれの分野の中で想像しているものには差があります。
今回はそれぞれの分野の当たり前を一旦忘れて、どういうものがアートなのか、これは既にあるゲームだ、といったことにも囚われずに、対象となる高齢者に楽しんでもらえると思うものを「アートプログラム」と呼んでみようと本ワークショップの姿勢が示されました。

ファシリテーターからの話題提供を終えて、これからいよいよワークショップの始まりです。

アイスブレイク

とは言っても、初対面のメンバーでいきなりディスカッションはなかなか難しいもの。そこで、まずは参加者20名が5つのグループに分かれ、自己紹介を兼ねたアイスブレイクから始めます。今回のアイスブレイクでは、高齢者支援の現場でも用いられることがある「回想法/ライフレビュー」を参考に、参加者それぞれの過去を思い出してもらう質問カードを活用しながら自己紹介をしてもらいました。

アイスブレイクをして、徐々に打ち解けてきた様子の参加者たち。カードに書かれた「長く続けている習慣や趣味はありますか?」「春と聞いて思い出す出来事はありますか?」などの質問に答えて自己紹介をしました。

次に、各グループに「対象者カード」が、ランダムに配られます。「対象者カード」には、たとえば「墨東隅子さん(80歳代後半)軽度の認知症と骨折、廃用症候群」といった、架空の高齢者のお名前や年齢、診断名などの基本情報のプロフィールが載っています。

参加者はアイスブレイクで使用した質問カードから、3つのエピソードを選び「対象者カード」に貼り合わせることで、ワークショップの参加者それぞれの趣味や特性がミックスされたオリジナルのプロフィールが完成します。

完成した「対象者カード」

この方法は架空の高齢者を想定してワークを行うにあたり、高齢者が身近にいる方もいない方も、ともにアートプログラムを考えられるように、青木と荒川さんが考えたものです。

地域で暮らす高齢者に向けたアートプログラムを考えてみる

グループディスカッションの前に、ファシリテーターから対象者をとらえてアートプログラムを考えるにあたって下記の補足がありました。

⚫︎今から考えるアートプログラムは⾝体機能の回復や治療が⽬的ではありません。
⚫︎アートプログラムを⾏なうことは、治療やリハビリを後回しにするということではありません。
⚫︎対象者について想像することを大切にしてください。
⚫︎具体的なワークショップのアイディアが思い浮かばなくても⼤丈夫です。グループのメンバーと⼀緒に考えていくことを⼤切にしてください。

荒川さんは実習中、通常は診断内容が記録されたカルテを読んでから対象者と対面するところを、実習先の作業療法士の先輩からの指導で、カルテを読まずに対象者の方々と対面する期間があったそうです。カルテの情報による先入観ではなく、荒川さんご自身が対象者とお話をしたり、観察することを通じて、その人となりが見えてくることがあったと言います。そして、これからの生活に向けてどのようなサポートが必要か、多面的に対象者を理解しようと努めながら支援することについて考えたそうです。この経験談から、今回の参加者の皆さんにも疾患名ではなく、その人自身をとらえることが重要だと話されました。

荒川さんのお話を聞く参加者たち。

ここから、参加者は対象者カードをもとにアートプログラムを考えるディスカッションの時間に移ります。
アイデアの参考として、ファンファンが作成したワークショップ事例集を配布したり、会場に参考資料コーナーを設けたりもしました。

対象者カードを元にその人がどのような性格でどのようなことが好きなのかを想像します。
対象者が楽しめるアートプログラムのアイデアがどんどん生まれていきました。
ファシリテーターも、各グループのディスカッションに耳を傾けます。

アートプログラムのアイデアを共有

約1時間のディスカッションで話した、対象者の情報とアートプログラムをグループごとに発表しました。このレポートでは3つのアイデアをご紹介します。

【2階の窓から見る出張パフォーマンス】

<対象者 墨田つつじさんのプロフィール>
・70歳代前半
・青春時代は友人と長電話をしたり、カフェでおしゃべりをするのが好きだった。
・訪問看護をしていて、自転車でまちを巡った思い出がある。
・今は遊歩道を歩くのが好き。
・症状は頸椎損傷。一人で車椅子生活をしている。以前のような生活ができなくなり、意欲も低下している。

<考えたアートプログラムについて>
「家の前でパフォーマンスをし、それを2階の窓から楽しんでもらうプログラムです。これは、墨田区内では2階に居住スペースがある建物が多いという話をうけて思い付きました。つつじさんからお話しを伺った思い出やエピソードなどをパフォーマンスに落とし込んでいきます。パフォーマンスのお稽古も家の前で行い、見てもらうことで、本人のエピソードに沿ったものに修正していきます。最後に完成したパフォーマンスを上演し、2階の窓からパフォーマンスを楽しんでいただけます。
頸椎損傷について調べてみると手が動かない方もいるそうで、ご自身が何かを作るというよりは、パフォーマンスの制作過程に参加して色々な方と関わりながら作り上げる方法を考えました。」

【隅子美術館】

<対象者 墨東隅子さんのプロフィール>
・80歳代後半
・図書館に通う習慣があった。
・美術館に行くことが好きだった。
・海外生活の経験があり、日本に帰国した時に四季を改めて実感した。
・現在は娘夫婦と同居している。
・軽度の認知症。骨折。廃用症候群。屋外で転倒したことがあり、次第に閉じこもるようになった。

<考えたアートプログラムについて>
「海外に行っていた経験から、家には海外のお土産や日用品があるのではないかという話になりました。インタビュー形式で周りの人が、それぞれのお土産が今の隅子さんにとってどのようなものなのか聞き取り、美術館にある作品の名前や説明が書かれているキャプションのようにお土産についての記録を書いて展示すると、家の中に隅子さんの美術館ができあがります。
軽度の認知症があるため、お土産と当時の思い出が結びにくいこともあるかもしれないけれど、振り返ることや、今の自分の気持ちに気づくきっかけになるかもしれないと思いました。」

【Project Trust】

<対象者 京島墨ノ介さんのプロフィール>
・90歳代前半
・空想を物語や絵に表現するのが好き。
・旅行が好きで、ヴェネツィアが大好き。
・子どもとかかわる仕事をしていて、子どもとコミュニケーションをするのが一番の喜びだった。
・現在は、配偶者と暮らしているが、難聴のために会話はほぼしていない。
・認知症がある。夜間に徘徊したり、新しいことを覚える記憶力は低下しているが、自立している。

<考えたアートプログラムについて>
「認知症で新しいことが記憶できなくても、昔の記憶を手紙にして子ども達と文通をするのが良いのではないかと話しました。でも、文通をする相手を探すのが大変なので、墨ノ介さんはひたすら手紙を書いて、誰かに宛てた手紙をまちの至るところに隠して置いておきます。それを拾った人が返信を書きます。そして、いつか手紙がたくさん集まったら、それを作品として展示することもできます。タイトルのProject Trustには、自分の過去を信じて、そして返信を書いてくれる見知らぬ誰かを信じるという意味があります。」

各グループから、ディスカッションの内容やアートプログラムのアイデアを発表する様子。

最後に、【Project Trust】を考えたチームの一人からこのようなコメントがありました。

「グループの一人から、そもそもこの対象者は今も子どもと関わりたいのか、人と関わることは重要なのかという意見があり、過去の経歴から今もこれが好きだろうと考えがちでしたが、その人の歴史も大切にしつつ、今目の前にいる本人を大切にすることが重要だと気づきました。
私は福祉関係の職に就いていて、今までも自由な発想を心がけてきたつもりでしたが、誰に宛てるでもない手紙を書いて最後に展覧会をするアイデアが出た時には、なんと壮大なアイデアで、これまでの考えが凝り固まっていたかと思いました。」

これに、青木さんと荒川さんからも「自分たちで人物像を作り上げようとしがちだと感じていたので、過去の経験を尊重しつつ、今の対象者本人を見ることが大切だというのは重要な気づきですね」と参加者に共感し、この日のワークショップは幕を閉じました。

ワークショップを終えて

参加者からはこんな感想をいただきました。

「訪問看護ステーションで働いていて、どうしても現実的にできること(時間、お金、体力etc.)を考えてしまい、アイデアが固く狭い物だと気づきました。グループメンバーの柔軟なアイデアに触れて、新たな価値観が生まれたように思います」
「アート、福祉というジャンルをいい具合にこえてワークショップができた。同じテーブルのメンバーの発想や整理してくれる意見に気づきや発見があった」
「まずは目の前の方の声に向き合うということの大切さを改めて認識しました」

アートと福祉のそれぞれの分野からの参加者が、互いのアイデアに刺激を受けていたことが伝わってきました。

今回行ったワークショップは、ファンファンにとっても荒川さんにとっても初めての手法で、実際にどのようなアイデアが生まれるかは未知数でした。しかし、アートプログラムのアイデア発表から、それぞれが当たり前だと思っていた考えが違ったかもしれないと気づきを持てた瞬間があったとわかりました。また、墨田区でこうしたイベントをひらき、多分野の方々にご参加いただけたのは、これまでファンファンが行ってきた展覧会やワークショップの積み重ねが繋がったようにも感じました。
今回のワークショップをさらに発展させることができるよう、今後もファンファンは活動を続けていきます。

イベント詳細
ワークショップ「まちへ出たアートが今度はお宅訪問!?地域で暮らす高齢者へ向けたアートプログラムを考えよう!」
日 時:2024年3月17日(日) 13:30~16:00
会 場:社会福祉法人興望館 本館1F(東京都墨田区京島1-11-6)
参加費:500円 
主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、一般社団法人藝と
企画協力:荒川真由子

関連webサイト
【公開ミーティング】「『藝とスタジオのアクセシビリティを考える』を始める」
記録冊子「ちいさな拠点のひらき方を考える ―藝とスタジオのあゆみ―」

執筆:磯野玲奈(ファンファン事務局)