「アーティスト・イン・レクリエーション」第3回勉強会レポート
ファンファンとは?
ファンファンで取り組んでいるプログラム「アーティスト・イン・レクリエーション」。アーティストと地域の福祉施設が連携し、様々な知見やアイディアを共有する勉強会を行いながら、レクリエーションを企画していく取り組みです。
2回の勉強会や、連携先の見学を経て、3回目の勉強会では、アーティストの皆さんからプランについての共有や、全体でのディスカッションを行いました。
1回目の勉強会の様子はこちら↓
2回目の勉強会の様子はこちら↓
上本竜平さん×隅田作業所
人と触れ合いながら即興で踊るダンス「コンタクト・インプロビゼーション」が専門のダンサー、上本竜平さん。レクリエーションの企画は、特定非営利法人とらいあんぐるが運営する就労継続支援B型事業所、「隅田作業所」にて行います。
勉強会の冒頭、上本さんから「ちょっとやってみたいワークがあるんですが、一緒にやってもらえますか」と参加者に対してお声がけ。その場で参加者全員が互いにペアになり、上本さんのリードのもと、相手に自分の身体をゆだねていくワークを行ってみました。
ワークの内容は、他人と“背中合わせ”をするというもの。参加者の皆さんからは、「最初は不安定だったけど、調整しあう中で安定していった」、「あまり経験しない感覚で面白かった」、「相手に対して『安心した背中をつくってあげられているかな』と気をつかってしまった」などといった感想が上がりました。
それを聞いた上本さんは、「安心や不安、どちらの感情もあって当たり前だと思います。身体に触れるということには、ちょっとした不思議さや、緊張と緩和の両方があるところを伝えたいですね。 なかなか言葉にならない部分もあるかもしれませんが、どういう身体の感覚だったのか、オノマトペのようなものでも良いので、今回のレクリエーションを通して、言葉を引き出したいなと思っています」とコメント。
上本さんは、ダンスそのものだけではなく、コミュニケーションも大事にしたいといいます。「相手の身体に触れることで緊張するのは否定できませんし、緊張によって身体に力が入ることは『相手を支えてあげよう』とやる気を出すことにもつながるかもしれない。参加者の方とコミュニケーションを取りながら進めていきたい」と話します。
コミュニケーションに関する話はさらに展開し、身体を使ったレクリエーションに参加しづらい、その日の気分的にしたくない人がいた場合は、記録側に回ってもらっても良いのでは?という提案も。「動いている人と、参加しない周りの人との距離をつくらないようにしたい、傍観者をつくらないようにしたい」という上本さん。カメラを持ってもらったり、踊っている人を見ながら手を動かして、スケッチのようなことができたりしても良いのではという案が上がりました。
それを受け、隅田作業所の廣川さんは「一緒につくり上げるって形になりますね。自分たちで行うときは、つい利用者の皆さんには楽しんでもらう、 撮影などの裏方はスタッフ、という感じの視点になってしまうので、その線引きをあいまいにするのはすごく良いと思います」と話しました。
「佐藤史治と原口寛子」×興望館
アーティストユニットの佐藤史治さんと原口寛子さん。レクリエーションは、学童保育・こども園・高齢者の方の支援・その他様々な世代の地域の方々との交流の場を持つ地域福祉施設、興望館で行います。今回は主にご高齢の方々とのレクリエーションにチャレンジします。
今回のレクリエーションで何をやるか、ブレストではたくさんのアイディアが出たというお二人。それらのアイディアを「学び⇔遊び」、「個人⇔集団」という軸でマッピングをして発表してくださいました。興望館に通う方がそれぞれ持っている名札に着目した「名札のストラップづくり」、自分の信念をタトゥーシールにするレクリエーション、各自の路地園芸を集めた寄せ植え、興望館に集う方々について伝える新聞づくり…。
その中でもイチオシのアイディアが、「オリジナル四字熟語づくり」です。参加者の方の個人的な教訓や生活の工夫などを、4つの漢字で表していきます。夜中の一時以降はお酒を控えるようにする「禁酒一時」や、「大黒屋」というお店の前を三分前に通過すれば電車に間に合うという「大黒三分」などが例としてあげられました。
佐藤さんは、「高齢者とか、墨田区在住とかいう属性でくくるのではなくて、個人個人のこと、人となりみたいなことを少しでも引き出せるような機会になるといいなと思いました。一方で、時間が限られているので、それぞれの人が持っているものを丁寧に引き出すっていうことは相当難しいだろうなと。さらに、あんまり真面目すぎるものではないほうがいいなと思ってこのアイディアになりました」と話します。
さらにこのレクリエーションのポイントは、最終的に「漢字ドリルを作る」こと。漢字ドリルは、興望館に通う子どもたちや、様々な人たちが触れ、勉強できるものになるまでを目指しています。ドリルにすることで、四字熟語を作るだけで終わらず、誰かとのコミュニケーションツールになる可能性を含んでいます。
アイディアに対し、参加者からは「日常、その人の生きざまが出てくると良い」、「このレクリエーションを、もっと色々な人とできないか?世代が混じると面白そう」といった意見も上がりました。
レクリエーションは、ハレかケか? 交差する「日常」と「非日常」
ディスカッション冒頭、上本さんから「今回、参加者とのコミュニケーションを大事にしたいなと思ったのは、佐藤さんと原口さんのこれまでのワークショップの話を聞いたこともひとつのきっかけです。特に、参加者の方にも様々なかたちでレクリエーションの内容に関わってもらうイメージが2人の話から浮かんできました。最初から『こういうものができる』と決めすぎずにやられてるのかな、と感じました」と佐藤さん・原口さんへコメント。
それに対し原口さんは「自分たちにコントロールできない何かが生まれるのが面白い」と答え、佐藤さんは「つくる楽しみとか喜びみたいなことと、第三者がその出来上がったものを観ることって別の軸だと思うんです。つくる体験をしていない人でも、成果物にアクセスできる、あわよくば「おもしろい」と感じられる回路ができるといいなとは思いますね」と答えました。
その後ディスカッションは、今回のレクリエーションは「特別なこと」か、「日々の延長」か?という話に展開していきます。
上本さんは、「僕は、さりげないものがダンスになっていくようなかたちでやっているので、ハレかケかと言われるとケ、かなと思います。だから、今回のレクリエーションも、発表会ではなく日常。エクササイズに近いのかもしれません。逆に、佐藤さんと原口さんのレクリエーションは、最終的に形にするという点で、ハレなのかなと感じました。そう思う一方で、人に触れる、ということを考えると、皆さんにとっては特別な日になるのかもしれませんね」とコメント。
隅田作業所の廣川さんは、今回のレクリエーションの位置づけをこのように語りました。「(互いに触れることに対して)相手が嫌に思うことはダメだよね、でもよかったらお互い受け入れあえるよね、っていう発展的な気づきが生まれたら、作業所としてもターニングポイントになる気がします。作業所の約束事の中に「過度なスキンシップは行わない」という項目があります。身体的接触も含まれていますが、今回のレクリエーションを経て、利用者の方から『普段の活動でもハイタッチとかしたい』など主体的な意見が出てくれば作業所の発展になるんじゃないかな。職員がトラブル防止の為に約束事を作るのではなく、みんなで話し合いみんなで守れる約束事の方がずっと通いたい作業所になるんじゃないかと思います。人によっては、他人と触れ合うのが何十年ぶりという方もいると思います。このレクリエーションは作業所としても初めての経験ですので、利用者の方にも、アーティストの方にもいい相互作用が生まれたら嬉しいです。内容が非日常すぎてしまうと、皆さんびっくりする部分もあるかなと思いますが、日常の部分も取り入れつつ少しでも思い出に残るレクレーションになったらいいですね」。
ここで改めて、ファンファンディレクターの青木から、「福祉の現場においてレクリエーションはハレなのかケなのか」と質問が投げかけられます。
「隅田作業所は仕事をするところなので、レクリエーションは余暇活動にあたります。ただ、それを利用者の皆さんがどうとらえているかは人それぞれです。日中の居場所と捉えている人からすれば作業でもレクリエーションでも、活動場所があれば同じと考えている人もいますし、逆にレクリエーションに参加することを作業所に通う楽しみにしている方もいらっしゃいます。ですのでハレにもケにもなります」と廣川さん。
誰もが交流や活動ができる拠点「地域福祉プラットフォーム」を運営する墨田区社会福祉協議会の佐藤さんは、「プラットフォーム自体は日常の延長ですが、時々イベントという特別感のある日があり、普段来ない人が来れる、普段関わらない人同士が関わる機会になっています。なので、今回のレクリエーションもハレのイメージでしたが、普段の日常の自分を表現する、というのも納得しました。その感覚の違いが面白いですね」と話しました。
さらに上本さんは、「日常の延長だけど、なかなか出会えない人に出会える非日常なのかもしれないですね。ハレはハレだけど、『よし』って気合を入れて臨むのではなく、もっと自然なかたちでやることもできるのかな、と。ハレの場だけどリラックスできるという感じかもしれません」と答えました。
「作業所という場所で行うことについては、上本さんにとっては非日常だけど、利用者さんにとっては日常ですね」と青木。興望館の萱村さんにも話を聞いていきます。
「興望館で起きていることは、子どもにとっては日常だけど、高齢者の方にとっては非日常…と混在しているように思います。何かをやる際、あまりにも非日常だと、なんだか取って付けたようなというか、なじまないことがあるように思います。また、その感覚は、不特定多数の人がくる場なのか、特定の人がくる場なのか、にもよりそうですよね」と萱村さん。
最後に青木から、「福祉の文脈では、レクリエーションは比較的、日常とセットであるように思います。一方、アーティストにとってワークショップを福祉施設等で行うことや、参加者にとってアーティストのワークショップを体験することは、非日常だったりすると思います。そういった状況が、もうちょっと日常化したら面白いことになりそうだなと思いました」とまとめがありました。
アーティスト、福祉施設や福祉の現場で働く方々、文化事業の専門家…等が様々な議論を交わしあった3回の勉強会。この後はいよいよ、レクリエーションの実施です。
それぞれどんな現場になるのか、どうぞお楽しみに!
★報告会開催のお知らせ
今回の「アーティスト・イン・レクリエーション」の取り組みを報告するイベントを行います。ぜひお越しください。
【登壇者】青木彬(インディペンデント・キュレーター)、三ツ木紀英(アートエデュケーター・アートプランナー、ARDA 代表理事)
日 時:2024年12月10日(火)19:00~20:30
会 場:すみだリバーサイドホール ギャラリー(墨田区吾妻橋1-23-20)
参加費:無料
定 員:30名(先着順、定員になり次第申し込みをを締め切ります)
申込方法:下記申込フォームからお申し込みください。
詳細はこちら
執筆:岡野恵未子
◾️本企画は「隅田川 森羅万象 墨に夢」(通称:すみゆめ)の一環として行なわれています。
すみゆめは、すみだ北斎美術館の開設を機に2016年から始まったアートプロジェクトです。葛飾北斎が90年の生涯を過ごした墨田区及び隅田川流域で、墨で描いた小さな夢をさまざまな人たちの手で色付けしていくように、芸術文化に限らず森羅万象あらゆる表現を行っている人たちがつながり、この地を賑やかに彩っていくことを目指しています。開催期間中は、まちなかや隅田川を舞台に主催企画やプロジェクト企画を行うとともに、すみゆめ参加者や関心のある人たちが集う「寄合」(毎月開催)で相互に学び、交流する場を創出していきます。またメイン期間の外にも、すみゆめの趣旨に賛同する企画を「すみゆめネットワーク企画」として広報連携するなど、一年を通して活動しています。