プラクティス

新しい対話のためのプラクティス「ゆびのかたりて」レポート

ファンファンが2019年度から取り組む「プラクティス」シリーズは、「ラーニング・ラボ」や「ファンファン倶楽部」の活動をきっかけに生まれた“気づき”を、より具体的な体験を通じて考えを深めていくプログラムです。

 2019年の7月から8月にかけて行った「新しい対話のためのプラクティス」では、普段何気なく使っている言葉や感覚、友達や家族との日常的な会話を、いつもとは違った方法で見つめ直してみることを、アーティストによる2つのプログラムを通して目指しました。2つ目のプログラムは夏休みの終わりの3日間、8月23日から25日の間に開催されたアーティストユニット佐藤史治+原口寛子による「ゆびのかたりて」です。

お二人は、今年3月に開催したラーニング・ラボ#02  深海菊絵「もう一度、家族を考える」のフロアゲストとして参加。深海さんの研究から、私たちが当たり前だと思い込んでいた家族の形が変わってきていることに気がつきました。自分とは異なる考えを持った人々と共生することについて考える機会から、今回の「ゆびのかたりて」が生まれました。夏休みということもあり、幼稚園に通われているお子さんとお母様のペアも参加されるワークショップになりました。

普段から共同作業の差異をテーマに作品制作を行う佐藤史治+原口寛子、お二人の活動紹介からワークショップはスタートしました。


佐藤史治+原口寛子(写真左奥)

物語をつくってつなげる

まず、参加者は2人1組となって席に座り、用意された質問に沿って夏の思い出を書きました。そこにあるのは「いつ」「どこで」「だれが・は」「なにを」「どのように」「どうした」を書く枠。一見すると簡単そうな質問なのですが、実際に書き出してみると思い出をそのフォーマットに合わせて表現するのが難しいことに気づきます。おそらく参加された方の多くは、自分が想像していた以上に時間がかかったのではないでしょうか。

次に紙を真ん中で切ります。切り取り線にそって切りやすくなっていたのは、原口さんが一枚一枚破線カッターで切っていたから。アーティストの工夫はこんなところにも表れています。

それぞれの夏の物語ができたら、切った紙の前半部分を自分の手元において、後半をパートナーと交換。全くつながりの無いこの2つの物語ですが、これを無理矢理につなぐための接続詞と新たな物語を、別シートに書きました。これが難儀な作業。400文字ほどの超大作や、2〜3世代にも渡る物語を作り上げた方もいれば、一言で上手に繋ぐ人も。簡単に繋げられそうな物語だったとしても、物語の主人公が持つ背景や人格を説明するために丁寧に風景や行動を描写する人もいます。現代美術作家を孫に持つ祖父の話、スピードを出すことに味をしめた走り屋、ドーナツの話に終始する人、などなど。

休憩のあと指人形を作る

さて、参加者それぞれがつくった物語を発表したらしばし休憩。休憩時間には、佐藤さん原口さんが用意した動画を観ながら、後半に向けて準備を行いました。この後のワークは指人形を作り、それを指にはめた参加者自身が物語を朗読するので、発声練習が必要です。そのため北原白秋「五十音」を映像の中にいる人と一緒に朗読できる映像が流されました。休憩もそっちのけで、参加者のほとんどが映像に合わせて後半への準備をしていました。

お待ちかねの指人形づくりです。新しくうまれたヘンテコな物語を語る指人形を、sheepstudioに準備された木っ端や毛糸やその他様々な素材を使って作ります。お母さんと一緒に参加してくれた5歳の男の子は木っ端を組み上げて恐竜を制作。走り屋の物語を書いた方は、毛糸を赤毛に組み上げて見事なヴィジュアル系バンド風の走り屋人形。飛行機が海に落ちた物語を書いた方は、タコのようなモンスター。短い時間ですが既にヘンテコな物語への愛着があるのか、指人形を作るときも参加者の皆さんの溢れ出すアイデアは止まることを知りません。

指人形の語りを撮影する

指人形ができたら、sheepstudioの2階で物語の撮影が始まります。

このためだけに作られた、指人形用撮影スタジオにはみなさんびっくり。指人形を指にはめたらピンマイクを胸に装着。参加者は台の下に潜り、穴から指人形をはめた手をのぞかせます。原口さんと佐藤さんの合図で撮影&朗読スタート。モニターから指人形の動きを確認しながら、物語の原稿を読むのは実はなかなか難しい。特に後半部分は自分で書いたものではないので読みづらいのです。なんとか収録が終了して階段を降りる参加者の皆さんの表情は様々でした。階下まで声が響くほどに元気な収録をされた方の清々しい顔は忘れられません。

(ちなみに一人一人が撮影する間、「指体操」の映像が流されていました。これもまた佐藤さん原口さんのオリジナル。)

全員分の収録が終了した後、上映会が始まりました。他の参加者の物語がどうなるかはもちろん、パートナーの手元にいった自分の後半部分がどのような物語として語られているのかも気になります。

最後に

普段何気なく使っている自分の言葉をパートナーが口にすることで伝わる違和感、それが指人形を介して語られることで少し柔らかな距離感を持って受け止めることができる。また、自分がパートナーの言葉を口にすることで感じる感覚のズレ、それを指人形を通して語ることで不思議と落ち着いて見つめ直すことができる。ただただ楽しい時間だったのですが、終わってみると何やら、パートナーの語る言葉に敏感になれたような、不思議な違和感が残るワークショップでした。参加された方々の帰り道での会話は今までとまた違った豊かさを帯びていたのではないでしょうか。

text by ヨネザワエリカ

【完成した映像はこちら】

新しい対話のためのプラクティス「ゆびのかたりて」
【日時】 令和元年8月23日(金)、24日(土)、25日(日)
     各日14:00-16:30
【会場】 sheepstudio(東京都墨田区京島3-20-9)
【講師】 佐藤史治+原口寛子

佐藤史治+原口寛子

2011年に結成した2人組のアーティストユニット。
対話のはじまりである「2人」の間から生じる対立やその解消、協調に関心を持ち、作品制作を行う。場所に触発された遊びや、好奇心による行為の共同作業、すでにある撮影技法や編集方法のチープな転用や応用などをもとにした映像インスタレーション作品を主に発表している。近年の展示に、2018-2019年 個展「たそかれ」(水戸のキワマリ荘、茨城)、2017年「第6回新鋭作家展 影⇆光」(川口市立アートギャラリー・アトリア、埼玉)など。

http://satouharaguchi.blogspot.com/