新しい対話のためのプラクティス「まぶたのうらの踊り」レポート

新しい対話のためのプラクティス「まぶたのうらの踊り」レポート

プラクティス

ファンファンが2019年度から取り組む「プラクティス」シリーズは、「ラーニング・ラボ」や「ファンファン倶楽部」の活動をきっかけに生まれた“気づき”を、より具体的な体験を通じて考えを深めていくプログラムです。

2019年の7月から8月にかけて行った「新しい対話のためのプラクティス」では、普段何気なく使っている言葉や感覚、友達や家族との日常的な会話を、いつもとは違った方法で見つめ直してみることを、アーティストによる2つのプログラムを通して目指しました。

1つめのプログラムは、今年3月に行なった「ラーニング・ラボ#03 今井むつみ『生きた知識にするための学び』」のフロアゲストとして参加してくださった関川航平さんを講師に迎えて取り組んだ「まぶたのうらの踊り」です。

これまでも文章を使った作品を制作してきた関川さん。目の前の状況を文章で簡潔に描写することで、書き手の視点や思考を読み手に追体験させるようなその文章はどのような方法で制作されているのでしょうか?

本プラクティスでは、そんな関川さんの普段の制作方法や、制作時に考えていることを参加者と共有するような時間を目指し、即興的に提示される様々なワークを通して、物の見方や見たものを表現することについて、3日間かけて考えていきました。

今回のプログラムについての説明(撮影:高田洋三)

まずはじっくり見てみる

1日目は関川さんの過去作品の紹介と、「まぶたのうらの踊り」で考えていきたいことをお話いただきました。そして参加者の方の自己紹介も終えてからは2つのワークを実施。

最初のワークは『机の上で起こっていることを15分間で記述する』というもの。ルールは、箇条書きではなく文章で書くということのみ。一見シンプルな作業に思えますが、互いに読み合わせをしてみると、「机の上」という範囲の捉え方や、時間軸の表現の違い、物体だけでなく光や風の記述など、それぞれの文章には様々な違いが見られました。

次に行なったのは『部屋の半分で起こっていることを記述する』こと。参加者は部屋の片側半分に移動し、もう半分のスペースで起きていることを記述しました。先ほどの机の上よりも対象となる範囲が広がります。記述する15分間、関川さんも部屋の中で飛び跳ねたり、音を出したり、物を移動させたりしています。範囲が広くなったことで、それぞれ記述する対象にもばらつきが見られました。

『机の上で起こっていることを15分間で記述する』ワークの様子(撮影:高田洋三)

みんなはどんなものを見ているのか

2日目は関川さんの関心をさらに掘り下げながら、『思いついた単語(文章)を10秒以内に書く』『思いついたことをキャンセルしながら10秒で文章を書く』ワークに挑戦。じっくり考える時間がないため思いついたままにペンを走らせながら、後から追いかけるようにその文章の意味を考えます。

そして『他人の視線を書く』というワークでは、AさんがBさんの視点、BさんがCさんの視点…というように、参加者それぞれが他人が見ているものや経験を記述することを行いました。読み合わせをしてみると、約10分間の出来事が参加者の経験のリレーによって多角的に立ち上がって行きました。また、それぞれの文章からは客観的事実と主観のズレなどがキーワードとして浮かび上がってきました。

参加者が文章を書く様子
『他人の視線を書く』の構造についてフィードバックする関川さん

言葉で表現することはどこまで可能か

最終回はこれまでの2日間を振り返った後、それぞれが『グッときたことを記述する』ことからスタート。個々人の体験と言葉で表現したもののズレから、「グッとくる」という主観的な感覚を共有することの難しさを考えました。

書くことと表現することの欲求について話す関川さん
「まぶたのうらの踊り」のワーク中に関川さんが書いた文章

「感覚の共有の難しさ」について考えたことをきっかけに、最後は「言葉で表現することは可能なのか」という問いを関川さんと一緒に考えてみました。これまでのワークでは言葉の順序によって喚起されるイメージが異なることや、記述されたもの/されなかったものの存在など、言葉で表現する時に生じる無意識の制限を見てきました。

そこに通底していた、言葉や文章によって表現された出来事と実際に体験した感覚の差異や、関川さんや参加者の皆さんにとって文章を書くというモチベーションの発生は、自分とは異なる価値観や考え、視点を持った他者とどのように対話をすることが可能かという問いに繋がるものだったように思います。

「新しい対話のためのプラクティス『まぶたのうらの踊り』」は誰かが答えを提供するのではなく、アーティストが参加者と一緒に対話の方法を探る場となりました。

text by 青木彬

「グッとくる」という感覚について話し合う様子(撮影:高田洋三)
(撮影:高田洋三)

関川航平

1990年宮城県生まれ。美術作家。パフォーマンスやインスタレーション、イラストレーションなどさまざまな手法で作品における意味の伝達について考察する。近年の主な個展に2017年「figure/out」(ガーディアンガーデン、東京)など。グループ展に2018年「トラベラー:まだ見ぬ地を踏むために」(国立国際美術館、大阪)、「漂白する私性 漂泊する詩性」(横浜市民ギャラリー、神奈川)ほか。

https://ksekigawa0528.wixsite.com/sekigawa-works
目の泳ぎ
移住のニュー・スタンダード!雛形