【ファンファン倶楽部第4期】シーズン3- ①「西村佳哲さんと考える『共にファンファンする』ための技術」

【ファンファン倶楽部第4期】シーズン3- ①「西村佳哲さんと考える『共にファンファンする』ための技術」

ファンファン倶楽部

「安心して”もやもや”しよう」を合言葉に、「ファンタジア!ファンタジア!-生き方がかたちになったまち-」(以下、ファンファン)のコンセプトを共有するコミュニティづくりを目指す企画『ファンファン倶楽部』。

第4期となる今回は、活動期間を3つのシーズンにわけ、徐々に「もやもやを安全に扱う技術」を探っていきます。各シーズンの初回に「もやもやを安全に扱う技術」のヒントを持つ方を、ゲスト(通称「ファンファン先輩」)としてお招きし、「ファンファン先輩」とのワークやディスカッションを受けて、その後の活動で部員それぞれが自分なりの「もやもやを安全に扱う技術」について考えていきます。
今回は10月16日(日)の活動レポートをお届けします。

この日から始まったシーズン3のテーマは「共にファンファンする」。これまでのシーズン1〜2を通して倶楽部メンバーは、まち歩きを通じて自分の関心の拠り所を確かめたりこれまでの自分のあゆみやその中でうまれた「もやもや」を振り返りました。このシーズン3では、そこで気づいたりうまれた自身の興味関心をもとに、他者と共有する術を考えます。
今回のゲストは西村佳哲さん。事務局の宮﨑が、「ART POINT MEETING」や「とびらプロジェクト」に参加した際、西村佳哲さんの「今夜冷蔵庫にあるものでなにか美味しいものをつくる主義」や「きく力」のお話が印象に残っており、今回お声がけをさせていただきました。

西村佳哲さん

昨年春「ファンファン倶楽部」の活動計画やテーマ、ゲストを考える中で、以前からファンファン倶楽部の活動の中で使われていた「安心してもやもやする」の 「安心して」という言葉について事務局でいま一度考えました。
「自分はどういうときに安心できるか/できないか」を考えたとき、自分が安心するためには、安心できる存在(人や環境)が必要だと感じていました。またシーズン1,2を通じて自分自身について考えていたとき、自分ひとりでは生きていけない社会の中で「安心」が広がるにはその「安心」を他者と共有することが大事なのではないかとも考えました。
そんな思いの中で、西村さんの考える「きく」姿勢に、自分と他者が共に安心してもやもやするためのヒントがあるように思えたのです。

共にファンファンするとは

自己紹介と今日の気分をひとりひとり話すことからはじまったこの日。
今日のテーマは「自分/他者への感受性をつちかって育むその技術と感性をどう磨けば良いのか」。西村さんのお話のポイントをまとめます。

西村さんのお話をきき、途中度々「いまの話についてどうだったか」をペアで話す/きく振り返りの時間をもうけながら進んでいきました。

・自分/他者への感受性
まず「本」を例に、あらゆる「しごと」は「かたちにしてみたい人」と「それを求めている人」の間に成立する、というお話から始まりました。
つまり、自分のことをたしかめたり、掘り下げることも大事ですが、最後の「しごと」は自分と人の真ん中に置くことが大事。真ん中に置くためには、まず自分に対する感受性(自分はなにを大事にして、心が動いて、なにを手放したくないのか等)と、他人に対する感受性が同時に必要であり、その両方を育んでいく必要があると西村さんは言います。

・自分だけのことと思えないもの
そして西村さんはこの「しごと」を“自分だけのことと思えないもの”とも表現されました。「自己満足も良いと思いますが、自分がこれは本当に大事なんじゃないかなと感じるものとか、“自分だけのことと思えないもの”はなんとかして誰かと分かち合ってみようと思うことがあります。“自分だけのことと思えない”と思う面白さは、それをつくって満足して自分は変わらないということではなくて、それを出していろんな人が反応や関心を寄せてくれる中で新しい発見や視野が開かれるかんじが起こることが、社会に出すことの価値かなと思っています。」

・「自分自身ー自分ー他者」の3者関係を生きている
「書きたい人ー本ー読みたい人」の関係性の例は、創作物に限らず私たち自身がそうなのではないかと西村さんは言います。
自分と他者と別に、自分の奥のほうに「自分自身」というものがあり、さきほどの関係は「自分自身ー自分ー他者」とも考えられる。
「本心では、本当は」という言葉遣いをする「自分自身」と、今ここにいる社会的な「自分」を同じように扱わないほうがいろいろな物事が整理できます。人は「(本心や実感と呼ばれる)自分自身ー(社会的な)自分ー他者」の3者関係を生きていて、つねに「自分自身ー自分」がつながっていることが大事なのです。

西村さんのスライド「自分自身ー自分ー他者」の図

・内的世界と外的世界の界面で調和を取ることが「自分」のしごと
「自分」は中と外の世界の界面にいて、両方の調和を取ろうとしている、外と中の折り合いをつけたり、調整をしている。そしてこれを死ぬまでするのが人間のひとつのしごとなのではないか、と西村さんは言います。
たとえば、他者から仕事を任されたとき、任された人はそれに応えようと界面から他者に寄っていきます。応答を繰り返していくうちに他者に寄り続けることになり、結果として「自分自身」との距離が遠くなります。すると「自分自身」がしたいことやなにを感じているかがわからなくなり、生きている実感がないような状態になることもあります。

自分への感受性と他者への感受性の両方を働かせながら、「他者」の方や「自分自身」の方へ揺れながら「自分」を存在させるのが私たちのしごと。真ん中のあたりで両方の世界とバランスを取りながら自分を存在させることが自己表現です。
また中と外の人間関係は結びつきあっています。たとえば自分自身に無理を強いる人は他者にも無理を強いたり、またその逆も起こることがあります。中と外の両方を自分は同時に生きているのです。

西村さんのスライド「自分自身ー自分ー他者ー他者自身」の関係と「自分の中/自分の外」の図

・「共にファンファンする」
自分と人は「自分ー他者」の2者関係ではなく、「自分自身ー(社会的な)自分ー他者」の3者関係というお話がありましたが、それはつまり「他者」の奥にも「他者自身」がいるため、「自分自身ー自分ー他者ー他者自身」の4者関係だと、西村さんは言います。
そして自分の内側と外側の輪郭線が変化し、「自分ー他者」が共感状態を作り出すのが作品を作るとか表現活動をすること。自分の中の世界がわたしたちになったり、わたしが描いたものでその人が泣いたり、一緒に感じている状態になる。それが「共にファンファンする」ということと重なってくるのではないでしょうか。

西村さんのスライド「共感状態」の図

共にファンファンするための「きく」

では、この4者関係を意識しながら他者と「共にファンファンする」ためにはどうしたら良いのでしょうか。

・自分と他者の感受性を取り扱うために「きく」
お互いに「自分自身ー自分」が一致している状態をどうつくっていくかが大事なことだと西村さんは言います。
「自分自身」と「他者」を取り扱う技術と感性を磨くためのトレーニングとして、日常のなかで影響が大きい「きく」ことに注目します。

・「ききて」の持つ力
人と話しているとき、相手がスマホをいじっていたり、興味のなさそうな相槌を打たれたとき、途端に話せなくなるときがないでしょうか。
「きく」ことがうまくいくと起こることは「はなす」こと。相手がきいてくれているかんじがするから、わたしたちは話せるのです。つまり、話すほうに力があるのではなく、きくほうに力がある。
まずはきく側が変わっていくと話せる人たちのありようが変わっていく。
では、表現方法の前に受信する能力を変えるにはどうしたら良いのでしょうか。

・自分がきけているかどうかではなく、相手に関心を持ち続ける
「きく」ときに意識しなくてはいけないのは、自分がきけているかとか一生懸命きこうとかではなく、目の前の人が話せているかや、こういう風に話しているなと相手を感受すること。
西村さんは「みんな一生懸命きこうしたり、共感しようとしますが、大事なことは相手がよりその人を表現できる時間を一緒につくること。相手の目が泳いだなとかうれしそうになったなとかいろんな変化をしていくのでそこに関心を寄せることが大事です。」と言います。

ひとりは「ききて」、ひとりは「はなして」になり部員たちは互いの話をききました。

・相手の話を自分の枠組みで処理しない
話をきくときに一番大事な姿勢は、話している人が話していることについてどんなかんじであるかに関心を持ち続けることです。
その人の話に「ああ、あの話ね」と自分の知っている話に当てはめて関心が薄くなったり、面白がっていたとしても話をしている人に「この人はわたしの話の内容に関心があり、私には別に関心があるわけではないのだ」という印象を与えたりすることになります。
無関心がいろんなものを簡単に殺し、関心を持たれてつづけていることが一番力を与えます。

・感情がひとつとは限らない
その人がいま話していることについてどんなかんじなのかを言葉で表現したとしても、それだけとは限らず、次があるかもしれません。
話しながら発見していく、気づいていくものもあるかもしれません。関心を持ち続けてみてください。
講義の最後、西村さんは「ききかたが変わると相手が相手自身に対してちゃんと繋がっているか、自分自身の感受性にきづけているかが見えるようになる」ともおっしゃっていました。

西村さんのスライド

西村さんからのお話をうけて、部員からは以下の感想がありました。
・「自分自身」という概念をきいて40年間もやもやしていたことがまさにこれだと思った。「自分」と「自分自身」のズレを感じていたのだと理解でき、もやもやが晴れた。
・すごくおもしろかった。人の話をきくときに、その人がわかるか一致点がどれくらいあるかを気にしていたが、違うことが前提と聞いて、身体中から鱗が落ちた。
・これまで人にインタビューをする機会が何度かあったが苦手だと感じていた。今日のお話しを聞いて、自分はインタビューをしながら、「次何を聞こうかな、あと時間何分だな」などを気にしていたことに気がついた。改めて人の話をきくことを実践したくなった。
・会社で働いているとたしかに、きいてもらえないと感じたり、相手がどう思っているのかを出してくれないことがあるなと思った。でもまずは自分が変わることからはじめたい。
・(スライドに)示されたような図で、人間関係を認識したことがなかった。こういうきき方を浸透させるのは難しいのかなと思った。

西村さんが提示された図は、これまで言語化しようとしていた「ファンファン」の感覚がまさに可視化された図だと思いました。
西村さんは最後に「これまでやってきたきく講座の中で一番短い時間での実施でしたが、楽しかった」と仰っていました。
事務局にとっても、西村さんにオファーをさせていただいてから実施までの4ヶ月間、西村さんはわたしたち事務局の願いや、倶楽部メンバーの状況を度々きいてくださり、アレンジしてこの時間を共につくってくださいました。まさに西村さんに伴走いただいた時間が「共にファンファンした」時間でした。

・相手の話を自分の枠組みに当てはめない
・相手に関心を持ち続ける
・感情はひとつとは限らない

ぜひ意識して、他者や自分自身の話を「きいて」みてください。
そして倶楽部活動はいよいよ終盤。
のこりの3回で部員たちは自分の「もやもや」や「ファンファン」の感覚を他者と共有することに挑戦します。

ゲスト
西村佳哲

1964年東京生まれ。プランニング・ディレクター。リビングワールド代表。働き方研究家。つくる・書く・教える、大きく3つの領域で働く。2014〜2022年4月は、主に徳島県神山町に居住。同町の「まちを将来世代につなぐプロジェクト」第1期(2016〜2021)にかかわり、一般社団法人神山つなぐ公社の理事をつとめた。現在は東京在住。著書に『自分の仕事をつくる』(ちくま文庫)など。京都工芸繊維大学、桑沢デザイン研究所、東京都美術館・とびらプロジェクト等で講義を担当。

執筆:宮﨑有里(ファンファン事務局)