藝術耕作所 レポート番外編「大玉村ツアー」
プラクティス
これまでのプログラムから得た気づきを元に、墨東エリアの中で具体的なアクションへつなげていくプログラム「プラクティス」。その中の「藝術耕作所」は、建築家の佐藤研吾さんや、地域の「たもんじ交流農園」と共に、農業、染色、DIYなどの体験から技術を通して協働を考えていきます。
佐藤研吾さんと「たもんじ交流農園」と「ファンファン」が初顔合わせを行ったのは昨年2019年の8月25日。墨田区の玉ノ井と佐藤さんが活動されている大玉村には同じ地名というつながりがあると盛り上がりました。さてそれ以来、たもんじ交流農園とミーティングを行うたびに大玉村の話で盛り上がります。名前でしか知らない大玉村。一度みんなで行ってみようじゃないかと話がどんどん具体的になりました。せっかく行くのなら大玉村で藍染をしてこよう、大玉村の農業も見てみたい、どうやら「たもんじ交流農園」のことも興味があるらしいからプレゼンしたい、温泉も、大玉村の美味しいご飯も楽しみたい、とあれよあれよと「大玉村ツアー」が完成。プログラムの番外編として、「藝術耕作所」に参加している有志メンバーで「大玉村ツアー」をしてまいりました。
1日目:藍染と交流会
大玉村に到着して最初に行ったのが藍染。先日の蜜蝋ワークショップで作った大きな布を一気に染め上げます。会場となったロコハウス(藍染め工房、制作拠点)の主、ひろこさんが用意してくださった藍甕(あいがめ)に布を浸して染液を浸透させた後、井戸水をはった浴槽でゆすぎます。その後、木灰で作った強アルカリの灰汁に浸し、再び藍甕に戻して染液を浸透。この工程を10回程行いました。
暖冬とはいえ大玉村の2月1日はとても寒いのです。藍甕はヒーターで30度に維持され温かいのですが、昨晩から溜めていた井戸水が驚きの冷たさ。井戸水でゆすぐ工程は布を酸化させるという重要な役割を担うためしっかりと行う必要があります。一度ならまだしも二度三度、さらに7回ともなると辛い。交代でなんとか染め上げました。
ロコハウスでは布に絵柄をつける工程もいくつか行いました。一つは前回の活動日でも行ったろうけつ染め。ただ今回は、「藝術耕作所」メンバーでアーティストの山本愛子さんがインドネシアのチャンティーという道具を持ってきてくださいました。蝋で細い線を描くことができるこの道具で、文字や顔がたくさん描かれます。もう一つの工程はガムテープ染め。布の両面からガムテープを貼るとその部分だけ染まらずに残るという手法です。繊細な線や太いガムテープで大胆に文字が描かれたこの布は後日ハイドロ染めで染め上がるのですがそれはまた別のレポートでご紹介します。
大玉村の夕方は早く、陽射しがあっという間に山の向こうへ隠れてしまいます。一気に冷え込む前に、私たちは車で近くの温泉へ。佐藤さんの活動の一つである歓藍社、そのメンバーがオーナーをしている温泉(露天風呂も!)で、体はほっこり温まりました。夜は同じく歓藍社メンバーの彦太郎さんが運営するヒコハウス(集会場)へ移動。大玉村のみなさんと交流会が開催されました。
スタインウェイのピアノが置かれた広間に3〜4脚のテーブルを並べた長机が作られ、そこに何種類もの食事が並べられます。搗きたてお餅の納豆餅や大根餅、手作りのピザ窯から出てきた焼き立てのピザ、大玉村で一番美味しいキムチに大玉村の野菜をふんだんに使った大玉村カレー、比内地鶏のお鍋に鹿肉。思い出せる限り書き出してみたのですがもっとたくさんのメニューが並んでいました。
作られた方とのお話は盛り上がります。比内地鶏のしめ方。ジャムの美味しい作り方。野菜はどこでどのように作られているのか、大玉村の農園と、墨田区の農園との違い、などなど。後半にはたもんじ交流農園の牛久さんから農園のプレゼンが行われ、活動の維持方法や目的などが紹介されました。場所の違いはあれど、活動を維持するための課題は共通するからでしょうか、プレゼン後は活発な議論が行われていました。
2日目:農場見学へ
さて翌日は、前日の交流会で一緒に盛り上がった大玉村の住民の後藤さんの農場へ行きました。
後藤さんは仕事を退職したのちに、自宅の敷地内で野菜づくりを始めたとか。農場へ行ってみると、広い畑、ビニールハウス、野菜を加工するために建てたという小屋がありました。ここでは安達太良山から細い水路を伝って流れてきた水で野菜を育て、その野菜は市場で販売していると話してくれました。
ビニールハウスの中は風も遮られてほんのり暖かく、足元を見ると収穫期を迎えた野菜がたくさん。「収穫していく?」というお言葉に甘えて、みんなで収穫してみることに。野菜の根元を掴んで引いてみると、軽い力でスルッと抜けるんです!土の匂いと、新鮮な野菜の香りが心地よい時間でした。
収穫した野菜は新聞紙で包んで、大事に東京へ持ち帰りました。大玉村の土がついた野菜を持って都会の電車に乗るのはなんだか不思議で、同時に場所を超えた交流ができたと感じられました。
藍染作業にプレゼン大会、見学など、盛りだくさんだった2日間。
「玉ノ井」という地名がきっかけで行われた今回の交流の中で、農作業などの共通の話題から互いの暮らすまちへの興味がさらに湧いてきました。「いつか大玉村のみなさんが墨田にいらした時には、たもんじ交流農園やスカイツリーに一緒に行きましょうね」という会話も。
これからは、藍染した布をのぼりや旗にかたちを変えていく作業が待っています。それらは我々の場所をつなぐ象徴になることでしょう。
text by 磯野玲奈、ヨネザワエリカ
イベント概要
大玉村ツアー(藝術耕作所 有志メンバーによる番外活動)
日時:2020年2月1日(土)〜2月2日(日)
会場:福島県安達郡大玉村