【プラクティス】トナリのアトリエ編集後記〜後編〜

【プラクティス】トナリのアトリエ編集後記〜後編〜

プラクティス

アーティストの碓井ゆいさんをパートナーに迎え、設立以来100年以上に渡りセツルメント活動を続ける社会福祉法人興望館と協働して行った、興望館の学童に通う子供達を対象としたワークショップ「トナリのアトリエ」。今回は後半4日間の様子を、ファンファン事務局のメンバーが綴った編集後記を通してお伝えします。開催初日は戸惑いながら参加していた子たちも、開催を心待ちにしてくれるようになりました。最終日までの様子をお届けします。

前篇はこちら!

11月29日(月)

 碓井ゆいさんの興望館の子供達を対象としたワークショップ4日目。わたしはこの日、はじめての参加でした。
 開始時間の15時になってもしばらく子供達は来ず、今日はみんな用事があるのかな?と、やや心配しながら待っていると、いつもよりはゆっくりでしたが子供達が集まってきて、2つあるテーブルがみるみるいっぱいになりました。
 もう慣れた様子で制作を始める子がいる一方で、初めて来た1年生の子たちがいたので、わたしはその子たちに説明をして、制作を始めてもらいました。みんなはじめは少しだけ何を描こうか悩んでいたのですが、1人が名札を作ったときに紙についてしまった黒いシミからネコの絵を描き出すと、それにつられて他の子達も好きな動物や果物などを描き出しました。お互いに好きな果物を尋ねて描いてみたり、「失敗した!」と言って隠したキャラクターの絵を「かわいいじゃん!」と褒め合ったりして、とても楽しそうでした。
 絵を描き終わった子が他の子を待っている間、みんな同じクラスで、それぞれにダンスやバレエやピアノを習っていること、その曜日などを細かく教えてくれたり、今度の日曜日のお出かけの予定やお母さんの仕事について話してくれたりした子もいました。
 その子たちが絵を仕上げ、体育館に行って遊ぶと去っていったあと、今度は宿題をして本を読んだあとの2年生が3人やってきました。その中にも初めて来た子がいて、機関車のことを書くことにしたのですが、絵から描こうか、文章から書こうかと迷い、しばらくエンジンがかかりませんでした。しかし、次第に緊張がほぐれてきたのか、窓から電車が通るのが見える度に「あれは浅草線だ」などと知識を披露してくれました。後から、その子と一緒に遊ぼうと思っていた子がやって来ると、仲良しの2人は大はしゃぎ。即興で作ったような歌を歌ったり、学校で練習している演劇のセリフを言ったりと、とても賑やかになりました。他の子達も負けじと、クラスで起きた楽しかった出来事や、お姉ちゃんの話などいろんなことを話してくれました。
 そしてそんな賑やかな中でも、それぞれにしっかり制作をして、あっという間に終了の時間となりました。
 ワークショップの残りはあと2回となりましたが、その予定が習い事と重なって、「あと1回しか来れない!」と言っている子もいました。子供達が全力でこの場を楽しんでくれているのを感じた、とても幸せな時間でした。

ファンファン事務局 遠藤純一郎

撮影:高田洋三

12月2日(木)

 アーティスト碓井ゆいさんのワークショップ「となりのアトリエ」の5日目。私はこの日が初参加でした。ワークショップ開始前、前の週に子ども達が作りかけた作品を壁に貼ったり、材料や文房具を準備しながら子ども達に会うのを心待ちにしていました。
 開始時間に隣の体育館で運動をしている子や、室内で宿題をしている子達にあいさつに行くと、すぐに小学1年生の子達が「うすいさーん!今日も絵描けるの?」と駆け寄って来てくれ、一緒にとなりのアトリエへ行きました。
 前回までに参加してくれた子ども達がほとんどで、ある子は先週までに書いていた物語の続きをつむぎ始め、ある子は絵しりとりを始めたりと慣れた様子で制作に入っていきました。私は自己紹介をする間もなかったので「どうやって子ども達と仲良くなろうか?」なんて考えていたら、子ども達の方から私の名札を見て「れなちゃん、ここにきて!」と話しかけてくれました。
 子ども達の間では一人で絵しりとりをするのが流行っているようで、「『あ』から始まる言葉は?」と誰かが問いかけると、他のみんなが次々に単語を提案して、言葉遊びのようにもなっていました。
 開始から一時間ほどして、流行りのドラマのフレーズを元気に歌いながら3人組がやってきました。3人は初めての参加だったようですが、周りの子ども達の様子を見てすぐに絵を描き始めました。少し経って完成した絵を見てみると、マスキングテープとペンでの描画をうまく組み合わせて地下鉄を描いていました。その後も次々と新幹線や飛行機を描いては見せてくれました。
 ワークショップ中、子ども達は絵を描くほかにも「高くジャンプするから見ててね〜!」と得意げにジャンプして見せてくれたり、あやとりを使ってマジックをしてくれたり、怪談話を聞かせてくれたりと楽しませてくれました。
 帰り際、高学年の子から「これは何?」と質問が。その子が手に持っていたのは、机の上にひっそりと置いていた、何十年も前に興望館に集っていた若者達が制作した小冊子のコピー。実は、ワークショップ開始前に碓井さんが「前回までの4日間でこの小冊子に気づく子がいないんですよ」と話していたものでした。子どもからの質問に、碓井さんも嬉しげに小冊子について話している姿がとても印象に残りました。

ファンファン事務局 磯野玲奈

撮影:高田洋三

12月7日(火)

 アーティスト碓井ゆいさんのワークショップ「となりのアトリエ」は遂に最終日を迎えました。「今日が最後かー、せっかく何度も通ってくれる子もいるのに寂しいな。」と考えながら会場に向かいましたが、開始時間になると、お馴染みの顔ぶれとなった子達に加え、今回が初めての参加という子たちも続々と集まり、あっという間に椅子がいっぱい、寂しがる暇もなく、あっという間に制作の時間が過ぎていきました。
 何度も参加してくれている子は、もう制作はお手の物、碓井さんやファンファンのスタッフにも慣れてきて、夢中でお話しながら制作を進めていました。前日にディズニーランドに行ったこと、ディズニーランドで興望館のお友達に会ったことを楽しそうに話してくれました。
 また今日は企画の見学で参加していた、ライターの杉原環樹さん(たまちゃん)も、子供達と同じ机に並んで制作に参加してくれました。
 ひとりの子がペンギンを描くとたまちゃんもペンギンを描き、その隣りに座っている子も真似をしてペンギンを描いたり、「たまちゃんラッコ書いてー!」とリクエストして描いてもらっている様子が見られました。初めて会う人にも自然にコミュニケーションを取れる子供達の姿がとても素敵でした。ワークショップ初日、今回の企画を担当してくださった萱村さんが、準備中の机の上に並ぶカラーペンやマスキングテープを眺めながら「興望館っぽいな〜。」とおっしゃっていたのは、こういう光景が既に頭に浮かんでいたのかもしれないと想像できました。
隣りに並んで手や体を動かすことで会話や接点が自然と生まれる場所で、子供達は日々を過ごしているだろうことを感じました。
 11月17日から始まったワークショップはあっという間に最終日となりました。初日の初めは子供達も、何を描けばいいのか戸惑いながら制作をしていましたが、日を重ねるごとにそれぞれが描きたいものを自由に描いてくれるようになったと感じています。好きなアニメの絵、おばあちゃんの家に遊びに行った時の絵日記、オリジナルの物語、恐竜、電車、お菓子…。制作中も劇の歌を歌ったり、おどけて走り回ったり、一方ではとにかく集中して制作をしたり、各々が自然体で楽しんで過ごしてくれていたのではないかと思います。
 自然体でいて、エネルギー溢れる子供達と過ごせた時間は、今現在の興望館の持つ雰囲気を肌で感じ、また人との接し方や個々人の個性の大切さを考えられる貴重な時間となりました。参加してくれた子供達と、見守ってくださった保護者の皆様、また学童のスタッフの皆様や萱村さん、館長に、この機会を設けてくださったことに感謝申し上げます。また少し成長した子供達の姿も見たいなあと、この企画の今後の展開にも期待を膨らませつつ、、。

ファンファン事務局 高村瑞世

撮影:高田洋三

こうして興望館での6日間のワークショップが終了しました!
学童の元気な子供達と同じ時間を過ごすことで、興望館で大切にされていることや日常の雰囲気を体感することが出来ました。碓井さんと、興望館、そしてファンファンの協働企画は来年度も続く予定です。今回のワークショップが来年度どのように繋がるのか、今後の展開にぜひご期待ください!