【プラクティス】「興望館100年の歴史をつむぐ刺繍制作」

【プラクティス】「興望館100年の歴史をつむぐ刺繍制作」

プラクティス

2022年度、ファンファンはアーティストの碓井ゆいさんを招聘して、東京都墨田区にある社会福祉法人興望館に残る保育日誌や活動資料、記録写真のリサーチをもとに刺繍作品を制作し、展覧会『共に在るところから/With People, Not For People』を行ないました。この記事では、碓井さんの作品制作の過程で行なったワークショップ「興望館100年の歴史をつむぐ刺繍制作」と、展覧会で展示された碓井さんのインスタレーション作品《家は歌っている》をご紹介します。

興望館100年の歴史をつむぐ刺繍制作

展覧会の数ヶ月前、興望館の職員さんや、お子さんのお迎えに来た保護者が碓井さんが刺繍したサンプル作品に興味を持ってくださいました。碓井さんと私たちはその様子を見て、興望館に関わる方々と刺繍作品の協働制作を思いつきました。
当初のプランでは興望館にみんなで集まって対面で刺繍をしようと思ったのですが、当時はコロナ禍でまだ集まることが難しかったため、職員さんを通じて参加者それぞれに材料や道具をお渡しして自宅で制作を進めていただけるキットを用意することにしました。
そして、職員さんや学童を利用する保護者や父母の会の方々、学童を卒所した子ども、興望館の資料を調査する研究者の方にも刺繍制作を呼びかけたのでした。

参加者に配布した刺繍キット(刺繍針、刺繍糸、刺繍枠、布)

キットに入っている布には、興望館でのリサーチで見つけた活動の記録写真から碓井さんが起こしたモチーフが描かれています。参加者は、このあらかじめ描かれている線に沿って「アウトラインステッチ」という方法で刺繍をしました。

展覧会『共に在るところから/With People, Not For People』

完成した刺繍は碓井さんの手元に戻り、パッチワークのように組み合わせたり、クッションやトートバッグに仕立て直されて作品の一部として展示されました。
展覧会ではこの刺繍作品のほかにも、興望館に保存されていた実際の昭和初期の保育日誌をもとに創作した架空の職員「町田道子さん」の日誌も展示されました。日誌には配布されたキットのように赤い糸で刺繍した手芸用品の話も書かれており、刺繍作品を見ながら日誌を読んでいくと、過去と現在、フィクションとノンフィクションが複雑に交差していきます。

(写真:加藤甫)

過去に興望館を利用していた方や子ども達を通わせていた方が展覧会を訪れ、自然と当時のエピソードや、記録には残っていない思い出を教えてくださいました。この展覧会がきっかけでこの場所にまつわる歴史に思いを馳せたり、自然と会話が生まれる場面がありました。
また、刺繍キットを受け取ってくださった参加者からは「子どもが寝静まった後に一人で刺繍する時間が楽しみでした」など、自宅ならではの楽しみ方への感想もいただきました。
展覧会終了後、刺繍作品は興望館に寄贈されました。

関連webサイト

展覧会「共に在るところから/With People, Not For People」記録映像

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