【公開ミーティング】「藝とスタジオのひらきかたを考える『言語を超え他者と出会う』」実施レポート

【公開ミーティング】「藝とスタジオのひらきかたを考える『言語を超え他者と出会う』」実施レポート

オープンスタジオ

「ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまち―」(以下、ファンファン)は、多くの方にファンファンの活動を楽しんでもらうために、 活動拠点「藝とスタジオ」で「オープンスタジオ」を開催しています。そのいちプログラムとして、2023年6月25日(日)に【公開ミーティング】「藝とスタジオのひらきかたを考える『言語を超え他者と出会う』」を開催しました。ここでは、その様子をレポートします。

本プログラムは、「藝とスタジオ」を例に、多様な来場者を想定しながらオルタナティブスペースの情報発信や拠点のあり方を考え、アクセシビリティの向上や安心できる空間づくりを実践します。今回はゲストに視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親を持つ聴者)が主体となり活動する「めとてラボ」のメンバーを迎えました。

この日は10名の参加者が来場してくださいました。ほとんどが普段音声言語を使用されている方です。めとてラボやファンファンのメンバーを含め20名ほどが集まった「藝とスタジオ」ですが、会場からは声が聞こえてきません。実はこの日、参加者には事前にメールでお伝えして、受付から音声言語なしでコミュニケーションを取るようにしました。来場者は受付で名簿にある自分の名前を指差して伝えたり、スタッフによる席の誘導も椅子を手で指して伝えました。

すると、四角い長机を囲んで座っている参加者の前に、めとてラボの勝野さんが現れ、「SHAPE IT!」というツールを使ったアイスブレイクが始まりました。机の上に三角形や波線などさまざまな形のカードがあります。ひとりが音声言語を使わずにジェスチャーでカードの形を表現し、他の人はその人が表しているカードを当てるというゲームです。

「SHAPE IT!」のカード。 一般社団法人異言語Lab.が開発。相手に「手や身体」でイメージを伝えあいながら世界をつくりあげて遊ぶイマジナリーコミュニケーションゲーム。

両手を開いて身体全体で形を表したり、片手をくねくねと動かして表すなど方法は人それぞれ。また、たとえばギザギザした形でも、大きなギザギザと小さなギザギザがあるため、その大きさも表現したり、受け取り手もちがいに気づくことが重要です。その場にいる全員が、ジェスチャーをしている人をじっと見て集中している光景が印象的でした。

次に、ファンファンディレクターの青木彬さんと、めとてラボの根本和徳さんが前に出て、視線や身振り手振りでコミュニケーションをとります。

中央の左側が青木彬さん、右側が根本和徳さん

青木さんは、手話はできません。なので、根本さんも青木さんに対して手話で話しかけることはできません。しばらく身振り手振りを続け、根本さんのジェスチャーを見て青木さんは頷き立ち上がって、部屋の中の本棚から本を一冊取って席に戻りました。
その後のトークで、青木さんは「お気に入りの本を持ってきてと言われたと思って、自分が執筆に関わった本を持っていきました。」と話すと、根本さんは「本を持ってきたのを見て、伝わったんだなとわかりました。」とおっしゃっていました。

ふたりのやり取りの途中に、根本さんが「藝とスタジオ」の2階に行く場面も。1階と2階が吹き抜けになっていることで、コミュニケーションがよりしやすい空間などを「デフ・スペース」と言うそうです。(めとてラボによるデフスペースデザインリサーチのブログはこちら

ふたりのように、音声言語を使わないコミュニケーションを参加者もやってみます。4名ほどでひと組になり、その中にひとりろう者のめとてラボメンバーが入ります。

みなさんジェスチャーをしている人に注目しています。

あるグループでは、手話で「私の誕生日は◯月◯日です」と伝えようとしても、「誕生日」の手話がわかった人/すぐにはわからない人がいました。わかった人はわからなかった人に伝えようと、手のひらに「たんじょうび」と指で書いたり、ケーキのロウソクを吹き消すイメージを伝えるために両手をお皿にしてふーっと息を吹きかけるジェスチャーをしました。それぞれが自分が伝えたいことを表現するジェスチャーを開発し、それでもうまく伝わらないとわかれば、ほかのジェスチャーに変えてみていました。それぞれの人が伝えること/受け取ることに集中して試行錯誤を繰り返し、私とあなたに伝わる新たな表現を開発しようとしているようでした。

また非音声言語の理解のスピードが、人によって、話題によって違いがあることにも気がつきました。自分に親しみのある話題だとジェスチャーで理解できる瞬間があるのですが、想像もつかない内容だと全くついて行くことができませんでした。

好きな食べ物について話したグループ。それぞれが思い思いに、自分の好きな食べ物をジェスチャーで表現しました。

今日のワークは以上で終了。参加者からは以下の感想をいただきました。

・ジェスチャーははずかしい気持ちがありましたが、言語を使わない時間はとても不思議な体験でした。
・言語を発話するときと比べ、不自由さを感じた一方、とても豊かな表現で意思疎通を図る奥ゆかしさを知りました。
・自分の思った以上に普段音声言語に頼ってしまっていると感じました。もっと表情や状態をみてコミュニケーションをしたいと思うようになりました。

私はこのイベントを準備したり、レポートを書きながら、いろいろと気づきを得ました。たとえば、このレポートの登場人物に(聴者)(ろう者)と書いた方がコミュニケーション方法の違いがわかりやすいかなと考えめとてラボさんにご相談したところ、「聴者とろう者の違いではなく、表現方法の違いと捉えている」とアドバイスをいただきました。また今回記録映像を撮っていましたが、カメラが一台だったため、距離的に離れている話者と手話通訳者を一緒にカメラに映すことができませんでした。事前にカメラの台数を確認したり、話者と手話通訳者の立ち位置を工夫するなど配慮できると良かったと思いました。

めとてラボのみなさんとの出会いは、普段音声言語を主なコミュニケーションツールとしている私にとって、視覚言語でコミュニケーションをとること、ジェスチャーなど身体を動かしてコミュニケーションを取ることのおもしろさを知るきっけかけになり、自分の身体や表現の可能性がひろがる機会でもありました。ろう文化への理解や想像力をより育みたいと思いました。めとてラボのみなさん、来場者のみなさん、ありがとうございました!

めとてラボとファンファン、アーツカウンシル東京のメンバー

↓めとてラボのnoteにも実施レポートが掲載されています!めとてラボ視点のレポートもぜひお読みください。
https://note.com/embed/notes/n6842e7a094d6

めとてラボ
視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親を持つ聴者)が主体となり、一人ひとりの感覚や言語を起点とした創発の場(ホーム)をつくることを目指したラボラトリー。コンセプトは、「わたしを起点に、新たな関わりの回路と表現を生み出す」こと。素朴な疑問を持ち寄り、目と手で語らいながら、わたしの表現を探り、異なる身体感覚、思考を持つ人と人、人と表現が出会う機会やそうした場の在り方を模索している。
https://note.com/metotelab

<学びのためのおすすめツール>

TARL 手話と出会う 〜アートプロジェクトの担い手のための手話講座〜 基礎編

アーツカウンシル東京が実施する「Tokyo Art Research Lab」がYouTubeにて公開している、視覚身体言語「手話」の基礎を学び、体感するのみならず、ろう文化やろう者とのコミュニケーションについて考えていく映像プログラムです。

指文一覧表

こちらも「TARL」WEBサイトにて提供されている資料「相手から見たときの指文字/自分から見たときの指文字」です。ファンファンでは「藝とスタジオ」に掲示しています。

執筆:宮﨑有里